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第54回 「日台民間投資取り決め」をどう読むか


ニュース その他分野 作成日:2011年10月11日_記事番号:T00033027

台湾経済 潮流を読む

第54回 「日台民間投資取り決め」をどう読むか

 9月22日、財団法人交流協会と亜東関係協会が日台の投資協定に相当する「日台民間投資取り決め」に署名した。

 投資取り決めが日台間の検討事項として提起されたのは、陳水扁政権時代である。今をさかのぼること10年前、2001年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)会合における平沼経済産業大臣、林信義経済部長の会談に端を発する。その場で日台間のFTA(自由貿易協定)の研究を民間ベースで行うことが合意されたが、その検討範囲に投資の保護・自由化も含まれていた。

 その後、日台FTAの締結は容易ではないとの判断から、03年以降は「可能な分野から協力を推進すべき」との方針に切り替えられたが、投資分野は優先検討分野として残された。06年10月には、陳前総統が「投資保証協定」の締結を提起、それを契機に投資取り決めの締結に向けた機運がやや高まったものの、署名に至るまでにさらに5年もの時間が費やされることとなった。

このように「難産」の末生まれた「日台民間投資取り決め」には、日本企業から見てどのような意義があるのだろうか。

当初は「無用論」も

 投資取り決めに関する議論が始まったころから、日本企業の中には「無用論」があった。台湾において投資上の大きな問題点は存在しない上、新たに自由化を求めるような領域もほとんどない、というのが「無用論」の根拠であった。また、02年元日に台湾が世界貿易機関(WTO)に加盟し、それによって台湾投資に対する保護が強化されたことも、こうした論調を支える一因となった(例えば、「投資に対するローカルコンテント要求」の禁止など)。しかも、「日台民間投資取り決め」の締結によって、何か新たな業種の市場開放が行なわれ、日本企業が他国企業よりも有利になったわけでもない。それゆえ、「日台民間投資取り決め」には価値がないという声も聞かれる。

 しかし、それでもやはり「日台民間投資取り決め」には一定の意義がある。

 第一に、「最恵国待遇」・「内国民待遇」の確保である。今後、他国が台湾と投資取り決めを締結し、日本よりも有利な待遇を台湾から勝ち得たとしよう。その場合、日本は「日台民間投資取り決め」に基づき、その最も有利な待遇を台湾から受けられる(「最恵国待遇」)。また、台湾当局が台湾企業に投資の認可などに関して有利な条件を与えた場合、日本企業も原則としてそれと同様の待遇を得られることになった(「内国民待遇」)。このようなポジションを確保したことの意味は決して無視できない。

 第二に、外国企業の台湾投資に関する規制の透明性が増した。「日台民間投資取り決め」後も、「最恵国待遇」・「内国民待遇」などの例外措置は残る。ただし、それらの措置が「附属書」の形でまとめられた結果、一覧性のある形で、例外措置の適用分野、根拠法、その具体的な内容が明示されることになった。

投資環境の改悪防止は有意義

 第三に、良好な台湾の投資環境の、改悪を防ぐことが約束されたことの意味は大きい。「附属書Ⅰ」に挙げられた例外措置については、現状維持義務が課されることになり、「日台民間投資取り決め」と非整合的な方向に改訂したり、新たな措置を採ることが禁止された。また、一度規制を緩和した後は、それに逆行する措置を採ることができないことになった(いわゆる「ラチェット義務」[1])。「附属書Ⅱ」に記載されている例外措置については、現状維持義務は課されていないが、新たな、あるいは、いっそう制限的な措置が採られる場合には、原則として、その実施前に日本側に通報し、日本側の要請がある場合には誠実に協議を行うこととされている。

 台湾の投資保護・投資自由化の水準が予期し得る将来に改悪されるリスクは小さい。台湾側も日本に対して同様の見方をしているに違いない。ただし、万が一の事態に備えて互いに保険をかけておくことには、やはり意味があると解釈すべきであろう。

[1]一方向にしか回転できない歯車の意

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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