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第111回 日台特許審査ハイウェイ5月から実施


ニュース 法律 作成日:2012年4月25日_記事番号:T00036712

産業時事の法律講座

第111回 日台特許審査ハイウェイ5月から実施

 日本と台湾との特許審査ハイウェイに関する覚書(略称「日台特許審査ハイウェイ覚書」)が4月11日、亜東関係協会と交流協会の間で取り交わされました。これにより、日台間で5月1日より特許審査ハイウェイ計画が実施されることとなりました。

審査スピード向上

 特許審査ハイウェイ(PPH:Patent Prosecution Highway)とは、協定を結んでいる国・地域の特許主務官庁が、特許検索や審査の結果をお互いに利用し合うことで、特許の審査期間の短縮を図るという制度です。この制度を台湾で適用すると以下のようになります。

 出願人が有する日本での特許案の優先権を台湾での特許案申請の際に主張する場合、日本の特許庁(JPO)に少なくともひとつのクレームに対して特許が認められると判断されれば、それを基に台湾の知的財産局(TIPO)に対して加速審査を申請することができます。出願人は、加速審査の申請時にJPOの特許査定、または審査意見通知書、および引用されている前案の資料を提出し、かつ台湾での特許申請の範囲を日本と同様またはそれ以下に修正しなければなりません。TIPOは日本での審査資料と特許査定結果を加速審査の際の根拠とするため、特許が認められる可能性が高くなります。

 逆に日本で提出される特許案に対して台湾の優先権を主張するためには、TIPOが少なくともひとつのクレームに対して特許が認められると判断した申請案を根拠に、JPOに対して同様の申請を行います。

基準や質に違い

 今回交わされた覚書は、台湾と米国の間で2011年9月から施行されているPPH計画の内容に近いものとなっています。しかし米国と日本では勝手が少々異なります。

 例えば、台湾と米国の特許審査は1年半から2年で結果が出るのが普通ですが、日本の特許審査には3年から4年もの時間がかかります。このような現状では、今回のPPH計画が施行された後、日本での優先権を台湾で主張して加速審査を申請する案件数が、その逆、つまり台湾での優先権を日本で主張して加速審査を申請する案件を上回ることはないでしょう。TIPOが「清理積案計画(累積案件処理計画)」を実施している現状ではなおさらです。

 また、台湾の特許審査における「進歩性」の判断基準は米国と同程度、つまり、日本のそれと比べて低いため、日本での審査結果が特許を認めている場合、その結果は台湾での特許審査で参考価値がありますが、その逆、つまり台湾で特許が認められたという特許審査結果が日本でも支持され得るのかについては問題があるでしょう。

 そして最も根本的で重要な問題は、知的財産局の特許審査の質です。台湾も日本と同様、「新型専利(実用新案特許)」には実体審査が行われません。しかし台湾知的財産裁判所のここ数年の統計によると、実体審査が行われる「発明専利(発明特許)」も、実体審査が行われない「新型専利」も、訴訟で知的財産裁判所から約4割が無効と判断されています。裁判に持ち込まれる特許案は全体から見れば少ないですが、それでも実体審査の有無にかかわらず、無効率4割というのは高く、知的財産局の特許審査の質に問題があることは明らかです。

実質効果に疑問

 しかし、このような加速審査制度は、今回の覚書が交わされる以前から存在しました。例えば、台湾で申請される特許案と同様の特許案が日本ですでに許可されている場合、日本での審査資料、特許査定結果などを基にTIPOに対して加速審査を申請することで、TIPOはそれらの資料を根拠として、約6カ月以内に特許審査を完成するというものです。

 以上のような点から、今回の「覚書」は外交上の成果ではあるかもしれませんが、特許審査の質やスピード、特許出願人の利便性向上に効果があるのかは大いに疑問が残ります。 

徐宏昇弁護士事務所

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