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第73回 台湾を悩ます両岸の政府債務問題


ニュース その他分野 作成日:2013年5月14日_記事番号:T00043622

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第73回 台湾を悩ます両岸の政府債務問題

  中国の元財政部長である項懐誠氏が4月6日に行った発言が世界の注目を集めた。中国の中央政府と地方政府の債務残高を合算すると30兆人民元を超えているかもしれないと述べたのである。想定されていた以上に中国の政府債務の規模は大きいとの見方が広がり、格付け会社フィッチ・レーティングスが人民元建て長期国債の格付を下げるなど、中国経済の先行き不透明感が改めて意識された。

中国GDPの58%規模

 30兆元という規模は中国の国内総生産(GDP)対比で58%に相当し、決して低くはない。ただし、中国は対外純資産国である。日本同様、政府債務のファイナンスを国外資金に頼る必要性は乏しく、対外的にデフォルトする可能性は極めて低い。

 しかし、地方政府が財政規律を欠いたまま借入を増やしていった場合、不良債権が積み上がり、金融危機が起こる恐れもある。また、債務返済により民生改善のための財政支出が圧迫され、政治・社会的な不安を招く可能性も否定できない。こうした懸念から、中国政府は地方政府債務に対する監督・管理をさらに強化し始めた。

 財政健全化に向けた中国政府の取り組みは、対中経済依存度の高い台湾経済にとっても中国の持続的発展につながる施策という点で望ましいことではある。

 ただし、こうした取り組みは、短期的な景気の先行きという点から見た場合、中国の不動産開発、インフラ建設の勢いを弱めることになろう。また、その結果として、化学品や金属といった建設資材の在庫調整、生産能力過剰問題の解消を遅らせる可能性が高い。

 台湾の製造業に占める化学産業、金属産業の存在感は小さくない(2011年時点の台湾製造業のGDPに占めるシェアは化学産業が18.2%、金属産業が12.8%)。中国の政府債務問題は、これらの業種を中心に、台湾の輸出や投資の意欲を弱める可能性が高いため、その行方を注意深く観察しておく必要がある。

台湾の債務問題、内需の足かせに

 このように輸出環境に不安材料がある以上、内需の振興に力を入れる必要がある。しかしながら、台湾も政府債務問題を抱えており、それが内需の弱さにつながっている。

 台湾の中央政府債務残高は、公共債務法により上限が定められており、現行法では、前3年間の住民総生産(GNP)平均値の40%が上限とされているが、12年時点で36.9%と上限に近づいている。それゆえ、馬英九政権は13年度予算でも公共投資の抑制を図った。2月時点の行政院主計総処の予測によると、公共投資の実質伸び率は前年比4.7%減と、3年連続のマイナスとなる見込みだ。

 13年1~3月期の実質GDP成長率(前期比年率)は1.54%と、政府の当初予測の3.2%を大幅に下回ったことを受けて、江宜樺行政院長(首相に相当)は、14年度予算は「拡張型」に切り替えるとの方針を打ち出している。ただし、中央政府債務の積み上げ余地は4,000億台湾元程度、12年のGDP対比で3%程度しかない。

 しかもすべての借入資金を成長率の引き上げに寄与する「真水」に回せるわけではなく、土地の収用などにも資金を割かねばならない。また、14年度に借入枠すべてを使い切ることも政治的に困難だろう。

年金財政という課題

 加えて、年金財政の健全化も同時に求められている。労工保険年金基金、公務人員退休撫卹基金、国民年金保険基金のいずれも財源不足の状態にあり、前2者は27年、国民年金保険基金は46年に破綻する可能性があると行政院労工委員会が試算している。

 こうした事態を受けて、4月25日には、保険料率の引き上げ、給付水準の引き下げなどを主体とする労工保険年金制度の見直し案が閣議決定されている。また、公務人員退休撫卹基金についても制度の見直し作業が始まっている。

 年金財政の健全化は台湾経済の持続的発展を確かなものにする上では重要だが、短期的には個人消費に影響を与えたり、企業負担増を通じて投資意欲の減少を招く恐れもないとはいえない。

輸出に頼らない経済活性化策を

 これまで見てきたように、先進国のみならず、中国でも財政健全化が強く意識されるようになっている環境下で、輸出の力強い回復は期待しづらい状況にある。また、台湾自身も財政政策の手足を縛られている。

 それだけに、規制緩和や対外経済協力を通じた経済活性化が今まで以上に求められているといえる。馬英九政権が規制緩和策、対外経済協力策の本丸として位置づけている「自由経済モデル区」、ECFA(海峡両岸経済協力枠組み協定)の後続協議いずれも6~7月に何らかの進展がみられそうだ。その中身を大いに注目したい。

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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