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第74回 台湾PC産業が直面する「3つの分散」


ニュース その他分野 作成日:2013年6月11日_記事番号:T00044140

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第74回 台湾PC産業が直面する「3つの分散」

 台湾経済に勢いがない。2013年1~3月期の実質域内総生産(GDP)成長率は前年同期比2.7%減と再びマイナス成長を記録した(前回は12年4~6月期)。5月30日に中華徴信所が発表した「台湾大型企業ランキング」上位5,000社の経営指標を見ても、利益率が低下傾向にある(図表)。この状況を指して、「微利時代」、すなわち台湾企業は薄利時代に陥ったと中華徴信所は表現している。

 中でも苦境にある産業の典型として最近名指しされることが多いのがパソコン産業だ。米調査会社IDCによると、今年1~3月期の世界PC出荷台数は前年比13.9%減と、同社が94年に同調査を始めて以来、最大の減少幅になったとされている。うち宏碁(エイサー)の出荷台数は同31.3%減と落ち込みが極めて大きなものとなった。ノートPC受託生産大手の仁宝電脳工業(コンパル・エレクトロニクス)、広達電脳(クアンタ・コンピュータ)の純利益も1~3月期はそれぞれ前年比37.3%減、同13.2%減と振るわなかった。

PC産業に起きた生態系変化

 台湾PC産業が苦境にある理由として、「3つの分散」とも呼べる構造変化が指摘できるように思われる。

 第1に、「売れ筋商品の分散」である。常々指摘されているとおり、タブレット型PC、スマートフォンの登場により、モバイル製品の多様化が進展したことで、ノートPCの需要がその分食われてしまっている。

 第2に、「生産拠点の分散」圧力である。従来生産拠点として活用してきた中国沿海部で労働力不足、賃金上昇が起こっている。そのため、中国内陸部、第三国・地域に生産拠点を移す必要が生じ、対応が図られてきた。

 ただし、生産拠点の分散は売れ筋商品の分散と相まって、「規模の経済性」を損なう恐れがある。また、生産拠点の分散自体が必ずしも成功を収めるとは限らない。例えば、コンパルは今年3月末にベトナム北部のビンフック工場での生産を休止したと伝えられている(『工商時報』13年3月14日)。労働者の定着難、インフラ整備の遅れ、サプライチェーンの貧弱さが生産休止の原因のようだ。

 第3に、中国ベンダーによる「部品調達先の分散」も台湾のPC産業にとって脅威となりつつあるようだ。6、7年前に中国で発表されていた学術論文では、台湾のノートPC産業の生産ネットワークは閉鎖性が強く、中国地場企業がそこに入り込むことは難しいとして、台湾企業に中国地場企業がキャッチアップするのをよりいっそう困難なものにしているとみる論文が多かった。

 しかしながら、5月31日の本紙でも紹介されたように、聯想集団(レノボ)などの台頭により、最近では中国市場を中心にPC産業の生態系が変わってきている。つまり、それらの中国企業が自社生産比率の引き上げ、中国地場系部材メーカーへの調達先の分散を図るようになったことで、台湾企業のシェア低下が懸念されるようになってきているのである。

中国企業に必須の存在へ

 これらの「3つの分散」という構造変化に台湾のPCメーカー、部材メーカーは対応しなければならない。

 だが、中国ベンダーによる部品調達権の掌握、自社生産比率の引き上げに対し、台湾のOEM(相手先ブランドによる生産)/ODM(相手先ブランドによる設計・製造)メーカーや部材メーカーが直接あらがうことはできない。相手が重要な顧客と化しているからだ。これまで同様、生産性を高め、技術開発を行い、より効率的な国際分業体制を構築し、中国ベンダーに対して台湾メーカーに発注する方が得だと思わせる以外にない。かつてヒューレット・パッカード(HP)に対してそれに成功した経験を台湾メーカーは持つ。

発表した新製品に命運かかる

 もう一つ重要なのは、台湾ブランドメーカーが新たな売れ筋商品を生み出し、中国メーカーを巻き返せるかだ。アジア最大の電子製品見本市、台北国際電脳展(コンピューテックス)でエイサーや華碩電脳(ASUS)が今回発表した新製品がその立役者となるか。その成否は、単にこの両者のみならず、台湾PC産業全体の先行きにも少なからぬ影響を与えそうだ。 

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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