ニュース その他分野 作成日:2013年11月12日_記事番号:T00046934
台湾経済 潮流を読む 6月21日に中台サービス貿易協定が調印された。しかし、同協定に対する批判の声も強く、目標としていた年内の批准・発効が危ぶまれている。10月25日の本紙では、同日付の『経済日報』を引用し、年末時点でも同協定の実質的な審査には入れず、公聴会の段階にとどまる見込みだと報じている。
中台サービス貿易協定の批准・発効の遅れは、同協定を利用して台湾から対中投資を行おうとしている在台日系企業にとっては不都合である。また、同協定の批准・発効の遅れは、後続の中台物品貿易協定の交渉の遅れにもつながる。中台物品貿易協定には、台湾にとどまったまま中国に輸出しやすくなるというメリットがある。中国の投資環境の先行きに対する不安感が高まっているだけに、このメリットは大きい。それゆえ、中台物品貿易協定に期待を寄せている在台日系企業にとっても、中台サービス貿易協定の行方は気にかかるところだ。
平行線をたどる議論
中台サービス貿易協定に対する批判にはさまざまな種類のものがあり、激しい議論が繰り広げられているが、議論が煮詰まっていない感がある。
その典型例が、対中開放が台湾サービス産業に与える悪影響に関する議論である。具体的には、中国の大型国有企業などが強大な資金力や政府の支援を背景に、台湾市場で不当廉売(ダンピング)などの不公正取引を行い、多くの台湾企業を倒産に追い込む恐れがあるといった批判がある。それに対して馬政権は、台湾の公正取引関連法規で取り締まりが可能な上、中台サービス貿易協定第7条、第8条に基づき、中国に関連の交渉や情報提供を要請できるため、上記の懸念は杞憂(きゆう)だと主張している。
対中開放が台湾の雇用に悪影響を与えるか否かをめぐっても、意見対立が見られる。馬政権は、対台湾投資を行う中国企業が中国人一般労働者を連れてくることを法律で禁止しているため、台湾人の雇用が脅かされることはないと説明している。それに対して反対論者は、対台湾投資を行う中国企業が経営責任者・高級管理職・専門家を中国から連れてくることは法律上認められており、これらの肩書きを隠れみのに一般労働者が台湾に入ってくる恐れがあると主張している。
その他、①電信・金融・運輸・倉庫などの対中開放により安全保障が脅かされる、②印刷業・劇場などの対中開放により言論の自由が損なわれる、③卸売・小売業の開放に伴って粗悪品が流入し、台湾人の健康的な生活が脅かされる、との批判も出ている。
問われる政府のモニタリング能力
これらの批判・懸念が妥当なものか否かは、多分に台湾政府のモニタリング能力にかかっている。馬政権が言うように、台湾には、公正取引関連法規、台湾での中国人の就業に関する制限法規、安全保障・政治・文化などから見て敏感な領域への中国企業の投資の事前スクリーニング法規、粗悪品に対する税関での検疫・検査システムなどがあり、それらがしっかりと機能すれば、上記の懸念は無用となるからだ。従って、本来詰めるべきは、そのようなモニタリングが機能するような状況になっているかという点だろう。その検証作業により論点を絞り、議論を煮詰めていくことが求められているように思われる。
民意を尊重した政策の立案・遂行を
中台サービス貿易協定に対する批判には、上述の「内容」をめぐる批判のほか、締結に至るまでの「意思決定メカニズム」に対する批判もある。十分に企業・労働者・立法委員などの声を聞かないまま、馬政権が締結してしまったという批判だ。どこの国においても、情報を隠して手の内を明かさないようにするという通商交渉上の要請と、通商政策に対して国民のモニタリングを働かせるべきという民主主義の要請との間には、ジレンマがある。
だが、馬政権に対して、より民意を尊重した通商政策の立案と遂行を求める声が強いことは間違いない。中台サービス貿易協定をめぐる今回の混乱を糧に、次の中台物品貿易協定の交渉に向けて、意思決定メカニズムの再構築を図れるかどうかが試されている。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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