ニュース その他分野 作成日:2014年4月15日_記事番号:T00049743
台湾経済 潮流を読む3月18日に「反服貿」(中台サービス貿易協定反対)を唱える学生らにより立法院の議場が占拠されてから23日後の4月10日、学生らが立法院から退去した。その間には警察発表で11万6,000人、主催者側発表で50万人の大規模なデモも起きた。
今回の一連の運動の意味付けは決して容易ではない。ワイズニュースの吉川編集長が自身のコラム「編集長のニュースに肉迫!」第5回で明らかにしたように、また学生リーダーの林飛帆氏が東洋経済新報社のインタビューで明言したように、異なる訴えや思いを胸に人々が抗議運動に参加したからだ。
だが、抗議運動の主たる動機は、中国との経済交流がもたらす弊害への懸念と、馬英九政権の意思決定方法に対する批判にあるように思われる。
前者に関しては、中台サービス貿易協定の締結により、▽中国企業との競争にさらされる▽印刷業などが中国企業に席巻され、言論の自由がおびやかされる▽中国から大量の労働者や投資移民が入ってくる▽対中経済交流がさらに加速することで中国の政治的統一攻勢に対して台湾がより脆弱(ぜいじゃく)になる──といった懸念の声が上がっている。
「交渉相手が中国」という特殊性
ただ、弱肉強食の世界をつくり出すグローバル化の象徴であるFTA(自由貿易協定)自体にそもそも反対、という声もないわけではない(林氏などもそうだ)。ただし、週刊誌「今周刊」が行ったアンケート調査で、他国とのFTAならば締結すべきとの声が過半数を占めていることなどから判断して、「中国」との経済交流に対する懸念を抜きに今回の抗議運動を語ることはできない。
一方で、民主的な監督を十分受けずに協定を発効させようとする馬政権の姿勢に問題があるという声も強い。馬政権は2期目のスタート時にも、米国産牛肉輸入問題や電気料金引き上げ問題などで、意思決定プロセスが独善的との声が上がったが、今回あらためて意思決定の在り方が問われることになった。「意思決定プロセスの『黒箱』(ブラックボックス)化に反対」との標語が街であふれたことからもそれは明らかだ。
むろん、馬政権にも言い分はあるだろう。だが、事態がここまで発展してしまった以上、中国との協定締結をめぐる意思決定の在り方を見直さざるを得ないだろう。
実際、馬政権は4月3日に、通商政策や対中関係に関して幅広い層の意見聴取とコンセンサス形成を目指した「経貿国是会議」の開催を提案した。また、同日、行政院は中台間の協定を監督する条例「両岸協議処理及監督条例」の草案を閣議決定し、立法院に提出している。
意思決定プロセス構築の難しさ
上記のように、今回の抗議運動の主たる動機には、中国との関係の在り方と、意思決定プロセスの在り方の二つがあるが、政府と抗議団体との対立軸が主として後者に置かれている点に救いを感じる。統一や独立問題をめぐる対立軸が前面に出た場合、事態がさらに泥沼化し、台湾社会に大きな亀裂が走る恐れがあるからだ。また、現在のところ、中台サービス貿易協定をめぐっても「0か1か」の二極思考ではなく、条文ごとの審査・可決を支持する声が多い。対中関係の断絶は望ましくないという意思の表れだろう。
ただし、対外交渉に関わる意思決定プロセスの見直しが決して楽な作業ではないこともまた確かだ。実際、学生らは中台協定監督条例の行政院案が立法院で可決された場合、総統府を取り囲み、抗議活動を行うと表明している。
一般に、協定締結交渉を有利に進めるには、手の内を全て明かすわけにはいかない。そのためには、国内の意思決定プロセスを意識的に不透明なものにする必要も生まれる。他方で、民主主義をうたう以上、協定締結に関して国民の監督管理がきちんと働くようにしなければならない。
この両者のジレンマは台湾のみならず、民主主義国家に共通する難題だ。日本の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉においても、こうした問題が今後火を噴く可能性は皆無ではないだろう。
この難題を克服し、台湾が新たな意思決定のメカニズムを構築できるか。それに失敗した場合、中国との関係の在り方をめぐる台湾社会内の対立がより先鋭化する形で前面に押し出されてしまうリスクがある。台湾の民主主義が今まさに試されている。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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