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第85回 中国の不動産市況と台湾市況への影響


ニュース その他分野 作成日:2014年6月10日_記事番号:T00050816

台湾経済 潮流を読む

第85回 中国の不動産市況と台湾市況への影響

 台湾経済は緩やかな回復軌道に乗っており、景気対策信号は3カ月連続で「緑」信号(安定の意)となった。台湾経済の復調をくじくリスクがあるとすれば、一つは先月指摘した台湾内の不動産市場の調整、もう一つは中国の不動産市況の大幅な悪化による中国経済の腰折れである。今回は後者について、考えてみたい。

 今年に入り、中国の不動産市場は調整の色を濃くしている。中国の不動産投資総額の68.5%を占める住宅(2013年)について見てみよう。13年12月に新築住宅販売面積は前年比▲0.7%と縮小に転じ、4月にはマイナス幅が▲15.7%にまで拡大している。それに呼応するように、新築住宅販売価格の伸び(前年比)も昨年12月をピークに鈍化し始めている(図表)。前月比で見ても、14年4月は+0.1%と、ほぼ横ばいにまで伸び足が鈍ってきている。新規住宅着工面積も今年に入ってからは2桁のマイナスが続いている(前年比ベース)。

 中国の住宅市場が調整に入った一因は、中国政府の投機抑制策にある。中国政府は13年秋以降、住宅投機を弱めるため、大都市を中心に2軒目購入者への住宅融資条件の引き上げなどの対策を講じてきた。ただし、投機抑制策という需要面の要因は無視できないものの、在庫積み上がりによる値下げ期待の高まりが住宅市場軟化の主因だと考えられる。実際、10大都市の在庫・販売比(面積ベース)を見てみると、足元は前回の調整局面(12年)に近い水準にまで上昇している。

 中国の都市化率は13年時点で53.5%(常住人口ベース)とまだ低いことなどから判断して、中国の住宅市場の調整が90年代のバブル崩壊後の日本ほど深いものになる可能性は低い。ただし、前回中国で住宅市場の調整が起こった12年と比べると、住宅の新規購入や買い替えの主体である生産年齢人口(中国の場合15~59歳)の減少ペースが今後速まるなど不利な条件がある。今回の中国の住宅市場の調整は前回よりも深いものになりそうだ。

住宅市場にてこ入れか

 こうした状況を受け、中国政府は、投機は抑制しつつも、住宅市場のてこ入れに動く可能性が高い。実際、一部の地方都市が保有戸籍による住宅購入制限の緩和や不動産取引税に対する補助支給など、住宅購入促進策とも解釈し得る政策を相次ぎ発表し始めており、中央政府もそうした試みを許容しているようにみえる。ただし、値下げ期待が高まる中、これらの施策で住宅市場が即座に力強く回復するとは想定しにくい。

 中国の住宅市場で調整が起こった場合、どのような経路で中国経済に悪影響が及ぶのだろうか。住宅不況により建設業が冷え込んだ場合には、金属精錬・圧延加工(建設業のGDPが100元減少した時の生産減少幅は32.1元)、セメントやガラスに代表される非金属鉱物製品(同26.7元)、化学品(同14.3元)、交通・運輸・倉庫業(同12.8元)などが生産面で大きな影響を受けやすい。不動産サービス業のGDPが減少した場合に最も大きな影響を受けやすいのは金融業(不動産サービス業のGDPが100元減少した時の生産減少幅は3.3元)であり、次いで化学品(同3.1元)、金属精錬・圧延加工(同2.2元)となっている。台湾から中国に建設資材が大量に輸出されているわけではないが、鉄鋼、非金属鉱物製品、化学品の価格下落を通じて、台湾の輸出に悪影響が及ぶことになろう。

 想定される最悪のシナリオは、住宅市況の悪化を契機とする中国の金融の混乱である。

 中国の銀行貸出残高に占める不動産融資のシェアは19.2%(13年)と小さくはない。銀行貸出残高に占める不動産担保融資のシェアも主要行平均で40%台に達しているもようである。また、信託貸出や委託貸出(企業間の資金貸借)、「理財商品(財テク商品)」を通じても、不動産に多くの資金が供給されてきたとみられる。それらが焦げ付くリスクが高まっているのである。

安全網の未整備が弱点

 中国の場合、不動産市況の悪化による不良債権増加に対する耐性は比較的高いと考えられる。国債の国内消化余地が大きく、約4兆米ドルの外貨準備をもつなど、金融機関の救済のための資本注入の余力を中国政府が持っているからである。

 ただし中国には、預金保険制度など金融面でのセーフティーネットが未整備である弱点がある。それゆえ、政府の危機対応のミスなどが引き金となる形で、預金取り付け騒ぎや理財商品離れが起き、金融危機が引き起こされるリスクもないとは言えない。

 台湾の対中輸出依存度(対中輸出÷GDP)は32.0%と高い(13年※)。それだけに、このテールリスクが現実化した場合に台湾が被る影響は大きい。中国の不動産市場の行方と金融への影響に対する警戒度を高めることが必要だろう。

※実際の計算は、中国の対台湾輸入額÷台湾のGDPとした。 

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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