ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム グループ概要 採用情報 お問い合わせ 日本人にPR

コンサルティング リサーチ セミナー 経済ニュース 労務顧問 IT 飲食店情報

第89回 賃上げ促進に動く与野党、「治標不治本」の懸念も


ニュース その他分野 作成日:2014年10月14日_記事番号:T00053206

台湾経済 潮流を読む

第89回 賃上げ促進に動く与野党、「治標不治本」の懸念も

 九合一選挙(統一地方選)の投票日(11月29日)が近づいてきた。選挙戦が激しさを増す中、9月3日の法定最低賃金引き上げ決定(月給ベースで3.8%増)に続き、10月6日には、立法院経済委員会で昇給した企業に対する営利事業所得税(法人税)減税案(「中小企業発展条例」第32条の2、いわゆる「賃上げ条項」改正案)が可決された。

法人税控除で賃上げ促す

 「賃上げ条項」の現時点の案は、▽中小企業は、台湾籍の非主管級の雇用者(月給5万台湾元以下を想定)に対する昇給総額(ただし法定最低賃金の引き上げによる昇給分を除く)については1.3を掛けた金額を、営利事業所得税の課税対象所得から控除できる(計算方法は表1参照)▽減税措置の発動条件は、経済指標が一定水準を超えて低調である場合、あるいは失業率が一定水準以上に達した場合とする──というものである。後者の発動条件については、失業率が6カ月連続で3.78%以上となった場合、実質賃金が長期間低迷している場合などが検討されているようである(ちなみに8月の失業率は4.08%)。

 

 控除倍率を1.3倍ではなく1.5倍、2倍に引き上げるべきとの意見がある他、発動条件やその判定・発表プロセスが確定しているわけではないが、会期中に立法院本会議で可決されれば、2014年末までに昇給した分に関しては15年の確定申告時から「賃上げ条項」が適用される見込みだ(10月7日付「聯合報」より)。

 このような法改正に与野党が動いているのは、実質賃金が長期にわたり低迷しているからにほかならない。1人当たり実質賃金は03年をピークに低迷し、10年余りにわたってその水準を超えられないでいる。

 ただし、緩やかながらも景気回復が続いてきたことなどから、昨年の半ば以降、実質賃金の伸びはプラス圏での推移を続けている(図2)。単位労働コストも今年上半期は前年同期比マイナスと、労働生産性の改善が見られ、賃上げ余地もある。この経済環境下で減税を導入すれば、確かに賃上げの流れを後押しできる可能性はある。

ビジネス環境づくりこそ重要

 しかしながら、今回の措置は「治標不治本」(表面的に問題の処理をしているだけで問題の根本を解決していない)にすぎないとの声も聞かれる。賃上げは労働生産性の改善と歩調が合ったものでなければ持続せず、企業の投資・イノベーションを支える環境づくりこそが重要だからである。

 実質賃金がかくも長期にわたり低迷しているのは、台湾の経済・経営環境、台湾企業の競争力に課題があることの表れである。世界経済フォーラム(WEF)のアンケート調査でも指摘されている行政の非効率性の改善などをめぐって、統一地方選が熱を帯びることが望ましい。

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟 

台湾経済 潮流を読む