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第94回 意志の力、行動の力


ニュース その他分野 作成日:2015年3月10日_記事番号:T00055758

台湾経済 潮流を読む

第94回 意志の力、行動の力

 2007年7月以来、7年8カ月にわたり寄稿させていただいた「台湾経済潮流を読む」だが、今回でいったん筆を置かせていただくことになった。かくも長い間愚見の掲載を許していただいた吉本社長、吉川編集長をはじめとするワイズメディアの皆さま、また愚考にお付き合いいただいた読者の皆さまにこの場をお借りして衷心より御礼申し上げたい。

 本コラムのタイトル通り、台湾経済の潮流をしっかりと読み、及第点を取れたかといえば、心もとないと言わざるを得ない。例えば、世界経済の先読みの深さが、輸出依存度の高い台湾経済の見通しを立てる上で致命的ともいえるほど重要なことを、08年9月のリーマンショックに端を発した世界金融危機のプロセスであらためて思い知らされた。また、馬英九政権発足後の急速な対中経済関係の緊密化の流れが14年3月に学生らによる大規模な抗議活動によって止まったが、このような事態に至ることを十分予見できていたかといえば、反省すべき点は多い。激しく変わる潮目に翻弄(ほんろう)されながら、台湾経済の半歩先を読む上で多少はお役に立つような情報をご提供できないか、もがくにとどまってしまったのが実態かもしれない。読者の皆さまのご評価に委ねたいと思う。

 激しい環境の変化の中で、また経済が一段と成熟に向かう中で、台湾の人々も何が幸せか、あるべき社会はどういう社会かについて自問してきたように思う。ただ、まさに上述した対中経済関係の緊密化に向けた素早い動き、それに待ったをかけた「ヒマワリ学生運動」に現れているとおり、自問するにとどまらず、社会、経済、政治を変えていこうとする意志を持ち、行動する強さを台湾が今も備えていることを定点観測する中で教えられた。

人口減少に直面する台湾

 時代を先読みする上で、トレンドが急には変わらない人口動態が最も役立つとの見方がある。確かに少子高齢化の流れが急に止まることは考えにくく、それが台湾の経済成長や財政などに影響を与えることは論をまたない。国家発展委員会(国発会)の低位推計(出産数が低いという仮定の下に計算された推計)では、生産年齢人口(15~64歳)は来年から、総人口は20年から減少に転じると予想されている。09~12年の台湾の年平均実質GDP成長率4.3%のうち(工商業のみで農業を除く)、労働投入の寄与分は0.4%ポイントであったが、今後は労働投入による成長の下支えが徐々に外れていくことになる。こうした状況の中、成長率を高めに保つことはむろん簡単ではない。

 ただし、労働投入の寄与度は、全要素生産性(生産性の向上)の寄与度の3.0%ポイントと比べればはるかに小さい。台湾社会が備えているダイナミクスの強さを踏まえれば、生活の質を高めたいという意志の力、行動の力が発揮され、それが持続的な生産性の向上につながる可能性は決して否定できないように思われる。

日台で新たな潮流を

 本コラムでも何度か触れたとおり、少子高齢化への対応、エネルギー問題、産業構造の偏りの是正、災害対策の強化、新興国市場の開拓など、日本と台湾は多くの課題を共有している。また、所得水準も技術レベルも似通っている上、相互信頼の基盤も厚い。意志の力、行動の力を日台が共に発揮し、新たな潮流が生み出されることを期待したい。

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟  

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