ニュース その他分野 作成日:2015年4月14日_記事番号:T00056390
台湾経済 潮流を読むみずほ総合研究所の伊藤信悟アジア調査部中国室長からバトンを引き継いで、今月より本コラムを執筆することになった。私は2度の台湾駐在を含めて20年近く台湾を中心とする東アジアの産業・企業について勉強をしてきた。この間、日系企業の方々、台湾企業で働く日本人の方々にご教示いただいたことは数知れない。本コラムの執筆を通じて、ホットな話題としての台湾経済の「潮目」と、その深層を流れる「底流」を見る上でのヒントとなるような話題の提供ができれば、そしてそれを通じて微力ながら台湾で実務の第一線に立つ方々のお役に立つことができれば幸いである。
さて、私が台湾経済を勉強する中で、特に強い関心を抱いてきたのが台湾電子産業の発展過程である。同産業の華やかな成功は、台湾企業の持つグローバル性、変化への対応力、顧客ニーズの的確な把握力といった優れた特徴を鮮やかに映し出している。台湾経済の研究者として、電子産業を中心に勉強を進めることになったのは自然の流れであった。けれども、この産業の比重がここまで高くなり、台湾経済を左右するようになろうとは、正直予想していなかった。
韓国よりも高い依存度
図1には、台湾の製造業域内総生産額(GDP)、および製造業雇用者数に占める電子電機産業のシェアの推移を示した。いずれの指標で見ても電子産業のシェアは右肩上がりに進んできたが、特に2000年代以降の対製造業GDP比の高まりが顕著である。
もっとも、電子産業への依存度の高まりは、台湾に限らず東アジアの多くの国・地域で共通して見られる傾向だ。電子産業では過去20年ほどの間に急速にデジタル化が進み、部品間のインターフェースが標準化されて、国境を越えた製品・部品の取引が飛躍的に拡大した。特に電子部材・設備のアジア域内貿易の拡大のペースは、自動車や機械産業に比べても急速だった。電子産業が過去20年間、アジアの経済成長と地域統合の原動力となり、東アジアの国・地域の産業構造が電子産業への依存度を高めたのは自然の成り行きだった。
しかし台湾では、電子産業のグローバルな成長から受ける恩恵が大きかった分、それへの「傾斜」も顕著なものとなった。韓国と比べても、台湾の製造業GDPに占める電子産業の比率は高い(図2)。
2つの副作用
経済の「電子産業化」は、台湾の経済社会が抱える以下のような問題の背景ともなった。第一に、マクロパフォーマンスの不安定化だ。台湾経済は2000年代に入って最初の10年の間に、2001年(−1.3%)、2009年(−1.6%)と、半世紀以上にわたって一度も経験しなかったマイナス成長を二度記録した。いずれもITバブル崩壊、世界金融危機の影響を受けたものだが、市況の振幅が大きい電子産業に強く依存していることの現れでもある。
第二に、地域間格差の拡大である。多くのアジア諸国では、急速な経済発展が首都への一極集中を引き起こしたが、台湾の高度経済成長の過程では、台北、台中、高雄を中心とする経済圏が成立した。それぞれの圏内では農村部から都市部への人口移動が起きたが、首都への一極集中はさほど起こらなかった。台湾が長らく国土発展の「優等生」として知られてきたゆえんである。しかし、電子産業の比重が高まるにつれ、主要メーカーが集積する台北~新竹エリアと、それ以外の地域の格差が広がるようになっている。中部、南部への科学工業園区の設立等、ハイテク産業の立地分散を促進する動きはあるが、その効果は限られたものだ。
電子産業の奇跡的な成長はまた、それが輝かしいものであった分、次のリーディングセクターの姿がはっきりと見えないことへの不安をかきたててもいる。中国電子メーカーの著しい台頭もその不安に拍車をかけている。
だが、次なる成長セクターとは、それが実際に現れるまでは姿がとらえづらいものだ。確実に言えるのは、電子産業での成功が世界の産業人の台湾を見る目を大きく変えたこと、そしてこの産業で台湾企業が培い、磨き上げた能力が、次なる成長セクターを生み出す土壌となるであろうことだ。台湾経済の潮流をつかむ上で、電子産業の動向からは目が離せない。
川上桃子
ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター 東アジア研究グループ長
91年、東京大学経済学部卒業、同年アジア経済研究所入所。経済学博士(東京大学)。95〜97年、12〜13年に台北、13〜14年に米国で在外研究。専門は台湾を中心とする東アジアの産業・企業。現在は台湾電子産業、中台間の政治経済関係、シリコンバレーのアジア人企業家の歴史等に関心を持っている。主要著作に『圧縮された産業発展 台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム』名古屋大学出版会 12年(第29回大平正芳記念賞受賞)他多数。
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