ニュース その他分野 作成日:2014年12月16日_記事番号:T00054409
台湾経済 潮流を読む11月29日、統一地方選の投開票が行われ、中国国民党(以下、国民党と略)が歴史的な大敗を喫した。その責任を取る形で、12月3日には馬英九総統が党主席を辞任した。これを契機に、台湾の政局は2016年初頭に行われるとみられる次期総統選挙に向けて次第にかじを切っていくことになるだろう。馬総統は党内権力の掌握にこれまで以上に苦しむことになりそうだ。
今回の国民党惨敗の理由として、いろいろな理由が指摘されている。一つは経済状況に対する市民の不満である。失業率が低下傾向をたどっており、実質賃金も近年になく上昇しているにもかかわらず、国民党が支持を集められなかったのは、多少景気が良くなろうとも、家を買うことすらままならぬといった不満が若年層を中心に強かったためだと推察される。あるいは、雇用・所得環境の改善が馬政権の政策によるものとの確信を有権者に与えられなかったことに一因があるかもしれない。
政治的接近への警戒感
ただし、経済政策に関して民主進歩党(以下、民進党と略)が重要な施策を打ち出せていたわけではない。国民党惨敗の主因を経済問題に求めるのは困難だろう。より重要な理由は、12月5日付の本誌「編集長のニュースに肉迫!」で吉川編集長が指摘している通り、中国への「政治的接近」を強めていた馬総統への警戒感であろう。
ヒマワリ学生運動は、中台サービス貿易協定がもたらす政治的・社会的影響に対する警戒感から組成されたという面を持ち、中国と協定を結ぶ際には、より民主的な監督を受けるよう馬政権に要求し、馬政権もその根拠法となる「両岸協議監督条例」の制定を約束した。それに対し、民進党は行政院案をより「民主的」なものに修正しない限り、立法院での協議に応じないとの姿勢を堅持してきた。
与野党の妥協点は見つからず、同法案は今も可決には至っていないが、この法案に対してどのような姿勢を見せるかは、中国との距離の取り方がより中核的な有権者の関心事となってきているだけに、次の総統選の候補者にとって、極めて重要な意味を持つことになるだろう。また、同法案可決後には中台サービス貿易協定の批准、中台物品貿易協定の調印・批准が控えているが、それらの協定がもたらす政治的なリスクをどのように判断し、どのような対策を取るのか、これらの点についても次期総統選候補者は見識を試されることになるだろう。それゆえ、対中経済関係をめぐっては性急な政策判断が行いにくいと推察される。
他方で、総統選が近づけば近づくほど、慎重な対応を求められることも必至なだけに、多少強硬な方法を使ってでも、早期妥結を目指した方がよいという判断も成り立ち得ないわけではない。実際、統一地方選後も、物品貿易協定に関する中台間の交渉は大きな遅れなく実施されるもようでもある。早期妥結シナリオが現実化した場合には、政治的な混乱につながらないか、注視が必要となろう。
中韓FTAの影響は未知数
海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)の拡充が進まぬ中、11月10日に中韓自由貿易協定(FTA)が実質合意に至ったことで、台湾経済に悪影響が及ぶのではないかと懸念されている。中韓FTAの合意内容の詳細が未発表なため、しっかりとした分析はそれが明らかになった段階で別途行うことにしたいが、台湾の対中輸出に関していえば、即時に甚大な影響を受けることはなさそうである。台湾の対中輸出総額のうち、既に中国からゼロ関税を適用されている比率が75.1%に達しているからである(14年1〜9月)。また、台湾の対中輸出総額の9.0%を占めている液晶パネルについては、中国は韓国製品に対して10年かけて関税率をゼロにしていくと約束しているようである。その他、台湾の主要対中輸出品目であるABS樹脂やエチレングリコール(EG)なども、20年以内といった、かなりゆっくりした開放ペースになるか、開放除外品目となるもようである。
経済的メリットと政治的リスク
むろん、個別製品では即座に影響を受ける製品も出てこよう。また、ECFAの拡充が進まない場合、中国政府が台湾と他国とのFTA締結に対して消極的な姿勢を強める恐れもないとは言えない。中国に対する過度の政治的接近への忌避感の強さがあらわになった今回の選挙ではあるが、対中経済関係が前進しないことによって生じる上記のデメリットにも向き合わなければならない。対中経済交流がもたらす経済的メリットと政治的なリスクのはざまでどのような均衡点を見つけていくのか。次期総統選の候補者のみならず、台湾の有権者にとっても、15年に検討すべき大きな課題となりそうだ。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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