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第86回 経貿国是会議の議題設定と台湾社会の健全さ


ニュース その他分野 作成日:2014年7月15日_記事番号:T00051526

台湾経済 潮流を読む

第86回 経貿国是会議の議題設定と台湾社会の健全さ

 現在、各地域で「経貿国是会議」の分科会が開催されており、7月26~28日に本会が開催されることになっている。

 経貿国是会議とは、3月18日~4月10日にかけて、中台サービス貿易協定に反対する学生らが立法院(国会に相当)を占拠した際、江宜樺行政院長がその打開を目指して開催を呼び掛けたものである。地域経済統合が進む中での台湾の通商政策、中台経済関係の在り方について台湾全市民参加型の議論を行い、コンセンサスを形成しようと呼び掛けたのである。

 しかし、当初は議題があまりに通商政策に限定され過ぎていた(下表「4月12日時点」参照)。また、「台湾は積極的に地域経済統合に参加すべきか」「台湾が地域経済統合に参加する場合、中国を排除することができるか」といった、総論として多くの人が否定しようのない議題が盛り込まれていた。それゆえ、「馬英九政権はそもそも議論をする気があるのか」といった声も一部から出ていた。

 こうした議題設定に対しては、国民党政権の関係者からも批判の声が聞かれた。例えば、学生らによる立法院占拠が少なからぬ世論の支持を受けたのは、市民の間に台湾経済・社会の先行きに対する不安があるからであり、まずは台湾経済が抱える問題の所在と原因について全面的に議論した上で、グローバル化への対応策や対中経済交流を考えるべきという声である。

経済問題の議論広がる

 幸いにして経貿国是会議の議題設定は、そうした声を取り入れる形で大幅な調整が行われた。むろん立法院を占拠した学生らからすれば、彼らが求めてきた憲政問題や、中台間の協定を監督する条例「両岸協議処理及監督条例」について議論が十分なされないという不満は残るだろう。

ただし、経済問題に限って言えば、議論のスケールが相当広がったことは間違いない。これは経貿国是会議第3回顧問会議の後に発表された6月8日時点の議題案を見れば一目瞭然である。現在はこの議題案に基づき、地域分科会が順次開催されている状況だ。

 馬政権にとっては、対中経済交流協定の締結・批准を加速させるためのコンセンサス形成が経貿国是会議のそもそもの狙いだったとみられる。このように議題が拡大したことは、当初の目的を実現する上では不都合な面があるかもしれない。もちろん地域経済統合への参加や対中経済交流の推進は台湾経済の今後を左右する重要な課題である。

中国以外にも視野

 しかし、激しさを増す国際競争に備え、台湾の中で一体どのように人材を育成し、新たな産業を生み出し、さらに経済・社会の安定を保つのか。地味な議題だとしても台湾内部の在り方について議論をより深めるべきだろう。

 台湾は中国との間で主権をめぐる対立を抱えている。それだけに、台湾の政治には、中台関係の在り方が議論の中心になりやすく、他のイシューが脇に押しやられやすい傾向がある。

 それでも、今回の「経貿国是会議」の議題をめぐる曲折は、台湾内部をより深く見つめようとする台湾社会のバランス感覚を強く印象付けた。今後意見のとりまとめ作業を行う馬政権にとっては大変であろうが、経貿国是会議での議論から新しい発想や政策が生まれることを期待したい。 

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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