ニュース その他分野 作成日:2015年7月14日_記事番号:T00058089
台湾経済 潮流を読むインターネット興隆で苦境に
紙面に踊る大判のカラー写真に、派手な色使いの大見出し。「名嘴(有名コメンテーター)」がマシンガンのように話しまくるトークショーに24時間放送のニュース専門チャンネルの数々。台湾のマスメディアが発散するバイタリティーは、日本の新聞やテレビを見慣れた人の目に新鮮にも異様にも映るに違いない。
だが、この活気あふれる台湾マスメディアを取り巻く環境は年々厳しさを増している。主要な収入源である広告収入額の推移を見てみると、地上波テレビと新聞は1998年、ケーブルテレビでは03年をピークに大きく減少している。
特に苦戦しているのが新聞だ。12年の新聞業界の広告収入は、ピーク時(98年)の45%にまで落ち込んだ。新聞産業の斜陽化は世界的な傾向で、台湾でも新聞離れは急速に進んでいる。図に示したように、「100世帯当たりの新聞の部数」は、98年の54部から05年には34部、13年には16部にまで減少した。「100世帯当たりの雑誌の冊数」も、98年の16冊から05年段階では15冊と安定的に推移していたが、その後急速に減少し13年には7冊となった。
図から分かるように、インターネットの利用者が急増した時期と活字メディア離れが急速に進んだ時期は連動している。インターネットの興隆が引き起こしたニュース無料化の流れが、新聞や雑誌の市場縮小をもたらした重要な背景であることが見て取れる。
ニュースの質が低下
マスメディアを取り巻く経営環境の悪化は、個々のメディアが生み出すニュースや言論の質の低下を引き起こしている。
その例として問題視されてきたのが「報道を装った広告」の増加だ。台湾の新聞やテレビのニュース番組では、客観的な報道のように見せかけつつ、実際には企業や商品の宣伝をする「報道を装った広告(置入性行銷)」と呼ばれる手法がしばしば用いられてきた。言うまでもなくこのような広告手法は視聴者、購読者をだますものであり、人々の報道機関への信頼を裏切るものだ。だが一方で、客観的な報道と見分けがつかない分、視聴者、購読者に対する宣伝効果が高い。そのためスポンサーに対し、より高額の広告料を請求できる他、一般の広告とセットにすることで広告出稿を引き出す材料として用いることもできる。
そのため台湾の新聞社や放送局は、広告収入の減少とともに「報道を装った広告」を多用するようになった。特に00年代以降は民間企業の広告出稿が減る中、政府が積極的に「報道を装った政策広報」を行うようになり、メディアの重要なスポンサーとなった。
中国から広告料
政府による「報道を装った広告」は、その実態が明るみに出て社会問題化したことから12年に禁止された。しかしこれと入れ替わるように増えたのが中国の地方政府をスポンサーとする「報道を装った広告」だった。台湾のネットニュース、新頭殻(ニュートーク)は、12年頃の中国の省長や市長の台湾来訪時の様子を大々的に報じた一部の台湾メディアが、中国側から広告料を受け取ったと報じた。明るみに出た後は減少しているというが、台湾社会に衝撃を与えるニュースだった。
新聞社や放送局は人々の知る権利の他、重要な社会問題をめぐる情報の共有と活発な討議を支える公共財の供給者だ。その社会的使命は極めて大きい。しかし同時にマスメディアは広告収入や購読料等に依存する市場経済のプレーヤーでもある。企業から台湾政府へ、さらには中国の各級政府へとスポンサーを乗り換えながら続いてきた「報道を装った広告」の存在があぶり出しているのは、「社会的使命を帯びた市場経済のプレーヤー」としてのマスメディアが抱えるジレンマなのかもしれない。
川上桃子
ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター 東アジア研究グループ長
91年、東京大学経済学部卒業、同年アジア経済研究所入所。経済学博士(東京大学)。95〜97年、12〜13年に台北、13〜14年に米国で在外研究。専門は台湾を中心とする東アジアの産業・企業。現在は台湾電子産業、中台間の政治経済関係、シリコンバレーのアジア人企業家の歴史等に関心を持っている。主要著作に『圧縮された産業発展 台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム』名古屋大学出版会 12年(第29回大平正芳記念賞受賞)他多数。
台湾のコンサルティングファーム初のISO27001(情報セキュリティ管理の国際資格)を取得しております。情報を扱うサービスだからこそ、お客様の大切な情報を高い情報管理手法に則りお預かりいたします。
ワイズコンサルティンググループ
威志企管顧問股份有限公司
Y's consulting.co.,ltd
中華民国台北市中正区襄陽路9号8F
TEL:+886-2-2381-9711
FAX:+886-2-2381-9722