ニュース その他分野 作成日:2016年1月12日_記事番号:T00061409
台湾経済 潮流を読む二度目を迎える総統選・立法委員選のダブル選挙がいよいよ今週末に近づいた。民進党の蔡英文候補の優位は揺るがず、立法委員選挙でも民進党が過半数を制する可能性が高い。2016年1月16日は、台湾政治に再び大きな地殻変動が起きた日として、歴史に刻まれることになるだろう。
だが、5月に成立する新政権は、厳しい経済情勢の下での船出を余儀なくされそうだ。2015年の台湾経済は、輸出低迷のあおりを受けて減速した。16年も状況が大きく好転する兆しはみえない。蔡陣営は新興産業の育成に力を入れることで台湾の産業構造の高度化・多角化を進める考えだが、その成果が出るまでには相当の時間を要することになるだろう。
中国依存度の高まりが裏目に
昨年末に台湾の主要研究機関が発表した15年の実質域内総生産(GDP)成長率の予測値は、主計総処の予測(1.1%)を除き、軒並み1%を下回る厳しい数字となった。リーマンショックの影響でマイナス成長となった08〜09年に続き、00年代に入ってから3番目に低い成長率にとどまったとみられる。
この減速の最大の要因は、輸出の不振だ。昨年1〜10月期のドル建て輸出額は、対前年同期比で9.8%の減少となった。HS4桁で最大輸出品目の集積回路類は2%減にとどまったが、2位の液晶パネルとその部材(▼17%)、4位の半導体ダイオード・トランジスタ類(▼21.3%)、5位の電子機器(▼11%)といった品目は大きく落ち込んだ。また、原油価格の下落により石油関連の輸出額が落ち込んだことも影響した。
市場別にみると、中国向け輸出の減少(▼12%)の影響が大きい。これは、世界経済の減速と中国自体の成長率の鈍化という景気循環的な要因も大きいが、中台の経済関係に表れつつあるより構造的な変化の反映である可能性も高い。中国は近年、半導体をはじめとする主要な部品産業の育成を国家プロジェクトとして推進している。中国の産業構造がより自立的なものになるにつれ、台湾の中国向けの部材輸出は、これまでのような勢いを保つことが難しくなっていくだろう。
16年の世界経済情勢は、中国を除いておおむね好転が見込まれている。それでも主要機関による台湾のGDP成長率予測は、最も高い主計総処のものでも2.3%にとどまっている。
「5大イノベーション計画」構想
このように馬英九政権の最後の1年は経済低迷のうちに幕を閉じることとなった。馬陣営が2度の総統選挙で、中台関係の改善と経済カードを通じて民意をつかんできたことを思うと、皮肉な巡り合わせだ。
それでは、政権獲得が確実視されている民進党陣営は、台湾経済をどのようにかじ取りしていこうとするのだろうか。蔡陣営は、新政権が力を注いでいく領域として、「グリーンテクノロジー」「スマート機械・精密機械類」「バイオ・医薬」「国防産業」を挙げている。これに、台湾とシリコンバレーのリンケージを強化し、ハイテク・スタートアップの育成を図る「アジアのシリコンバレー」計画を加えた「5大イノベーション・研究開発計画」を、経済・産業政策の主眼に掲げている。
「5大計画」の中には、既に一定の発展を遂げているセクターもあれば、産業横断的な施策も挙げられているが、共通しているのは、産業構造の多角化と高付加価値化、日米のハイテク分野との連携強化を図り、00年代の台湾で加速したエレクトロニクス産業への傾斜と中国市場への依存を脱却しようとする姿勢である。また、起業支援とスタートアップの育成を通じて、00年代に入って顕著になった大企業化の趨勢に歯止めをかけようとしていることも見て取れる。
「ライトアップ」実現には長い時間
いずれも、現在の台湾が抱える構造的な問題を考えれば、うなずける方向性ではある。5年後、10年後の台湾経済のためには、まずは土を耕し種をまくことから始めねばなるまい。だが、台湾の輸出と雇用を一手に支えているエレクトロニクス産業が、紅色供給網(レッドサプライチェーン)の興隆や中国の成長率の鈍化といった試練に直面する中、経済低迷が長引けば、人々の目にこれらの政策はいかにも迂遠なものに映るかもしれない。
蔡陣営は「ライトアップ・タイワン」というスローガンを掲げて選挙戦を戦ってきた。政権交代は、台湾の政治と社会に新しい風を吹き込むことになるだろう。しかし、たとえ新政権が経済の高度化・多角化の推進策を思い通りに実行できたとしても、それが台湾経済を「ライトアップ」するまでに実を結ぶまでには、長い時間を要するだろう。
川上桃子
ジェトロ・アジア経済研究所
地域研究センター東アジア研究グループ長
91年、東京大学経済学部卒業、同年アジア経済研究所入所。経済学博士(東京大学)。95〜97年、12〜13年に台北、13〜14年に米国で在外研究。専門は台湾を中心とする東アジアの産業・企業。現在は台湾電子産業、中台間の政治経済関係、シリコンバレーのアジア人企業家の歴史等に関心を持っている。主要著作に『圧縮された産業発展 台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム』名古屋大学出版会 12年(第29回大平正芳記念賞受賞)他多数。
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