ニュース その他分野 作成日:2016年9月13日_記事番号:T00066412
台湾経済 潮流を読む業界から噴出した批判
蔡英文政権の産業イノベーション政策の目玉である「アジアのシリコンバレー」計画が、2カ月にわたる仕切り直し作業を経て「アジア・シリコンバレー計画」と名称を変え、今月8日の行政院会で閣議決定された。
新政権が推進する「5大イノベーション計画」の中でも、他の4つの政策は、グリーンエネルギー、スマート機械、医療バイオなどといった特定セクターの振興策であり、比較的内容が分かりやすい。これに対して「アジアのシリコンバレー」計画は、「IoT(モノのインターネット)」関連技術の支援策から、起業環境改善策、シリコンバレーの潜在力のある企業とのパートナーシップ強化、アジアの起業家との交流促進策まで、さまざまな施策が詰め込まれた計画であり、元から全体像が見えにくかった。しかし、6月半ばに国家発展委員会(国発会)がこの計画を「5大イノベーション計画」の第1の矢として発表すると、IT業界やハイテク・スタートアップ業界の実務家らから、予想を上回る厳しい批判が起こった。
まず、台湾桃園国際機場捷運(桃園空港MRT)の駅の近くをはじめ、数カ所に新たに用地を確保してイノベーション交流センターやアジア青年IPOセンターなどを建設するというプランが、「時代遅れのハコモノ主義だ」と厳しい批判を浴びた。また、IoTイノベーション拠点を桃園市に設けるという方針についても、「ハイテク・エコシステムの持つ都市的な性格をまるで分かっていない」という疑問の声が挙がった。要は、政府の発想は古臭く、ハイテク・イノベーションのあり方を全く理解していないという批判だ。
行政院長の掛け声の下、仕切り直しへ
批判の高まりを受けて林全行政院長は「イノベーション・コミュニィティーとコミュニケーションをとる」「『アジアのシリコンバレー』計画を定義し直す」と述べ、計画の再検討を決めた。林全氏自身も、政策を批判した業界関係者らと面会して議論を行った。さらに8月末には、オープンガバメント運動の立役者として名高い著名なプログラマー・起業家の唐鳳氏がデジタルエコノミー・オープンガバメント担当政務委員に内定し、業界関係者たちとの意思疎通に一役買った。この計画が、シリコンバレーのコピーを狙ったものではなく、シリコンバレーやアジアとのリンケージ創出を目指すものであることを明確にするため、「アジア・シリコンバレー計画」への名称変更を提案したのは唐氏だという。
8日に閣議決定された修正版の内容をみると、その大枠は6月のバージョンと同じく、IoTのイノベーション・研究開発(R&D)と、イノベーション・エコシステムの強化の2本柱となっている。一方、業界からの批判を受けて、「ハコモノ色」と「桃園色」は薄められた。2017年度の同計画の予算113億元の中に、いわゆる「園区」の建設は含まれていない。また桃園市は、同計画のモデル地区の一つという位置付けに落ち着いた。国発会によれば、関連施設の建設は、将来必要が生じたときに桃園市が中心となって行う予定だという。また、業界との話し合いの中で要望が強かった規制緩和を促進するため、別途「デジタルエコノミー」計画を策定するという。
政府と民間の垣根の低さ
このように「5大イノベーション計画」の第1弾である「アジアのシリコンバレー」計画は、出だしでつまずく形となった。また、「ハコモノ主義」の修正は必要な軌道修正であったが、結果として、馬英九前政権が最後の数年間に取り組んだ起業奨励策やシリコンバレーとのリンケージ強化策との違いが見えにくくなり、新政権の目指す方向の特徴がぼやけてしまった感も否めない。
とはいえ、この「仕切り直し」のプロセスからは、台湾らしい、政府と民間部門のコミュニケーションの活発さが見て取れる。関係者らから批判が出た以上、いったん計画をストップし、業界の声に耳を傾け、必要な修正をする。政府に限らず、官僚的な大組織にとって、これを実行するのは容易なことではない。しかし台湾では、極めて競争的な政治環境と、政府に対する社会の側からの厳しいチェックの視線、そして唐氏らが進めてきたオープンガバメント運動の成果が、政府の民間部門とのコミュニケーションの風通しの良さにつながっている。政府に対してそれだけの緊張感を持たせることのできる社会の側のパワーは台湾の強みである。
川上桃子
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