ニュース その他分野 作成日:2017年2月14日_記事番号:T00068939
台湾経済 潮流を読む業務停止に追い込まれる
今月10日、世界最大の配車サービスアプリ事業者である米ウーバー(Uber Technologies)社が台湾でのサービスを停止した。ウーバーは、2009年にサンフランシスコで創業した後、急激な成長と世界展開を遂げたハイテク・スタートアップで、今やシェアリングエコノミーの旗手として世界の注目を集める存在だ。同社のスマートフォンアプリで配車を依頼すると、運転手がマイカーで迎えにきて、目的地まで有料で乗せてくれる仕組みで、ウーバーは運転手の売り上げの一定率を仲介料として得る。台湾では13年に営業を開始し、登録ドライバー数1万人、登録利用者数が100万人に達するなど、順調な成長を遂げてきた。
ウーバーが業務停止となった10日、交通部前にウーバー運転手たちの車(手前)が集まって抗議活動を展開したが、通りかかったタクシー運転手(奥)からは厳しい視線が向けられた(中央社)
しかし、自社を「情報通信業者」と位置付けるウーバーに対して、交通部は同社をタクシー事業を営む輸送事業者であるとし、タクシー会社として登録した上で関連法規や納税義務を守るよう強く求めてきた。
1月初旬には改正公路法が施行され、ウーバーがタクシー会社として登録しない場合には、最大2,500万台湾元の罰金を科すほか、運転手に対しても厳しい罰則が科されることとなった。2月初めには、昨年末の行政高等法院からの命令に加えて、交通部からも業務停止命令が出された。こうしてウーバーは台湾での業務停止に追い込まれた。
日本では隙間参入に成功
シェアリングエコノミーは、インターネットを介して個人間でのモノやサービスの交換・共有と収益化を図る枠組みだ。消費者向けサービスを提供してきた企業の事業基盤を掘り崩す性格を持つため、タクシーやホテルといった既存の業界とは鋭く対立することが多い。政府も、既存業界への配慮に加え、消費者保護の責任を負う立場から、不特定多数の人を有償で運んだり泊めたりする行為を規制しようとする。
ウーバーは14年から日本市場にも参入している。しかし、その戦略は台湾市場での展開とは大きく異なる。まず首都圏で、既存の交通事業者と提携してタクシー・ハイヤーの配車サービスに乗り出した。さらに、公共交通機関が空白となっている過疎高齢化地域に限り、NPO等が主体となってマイカーによる有償運送を行うことが認められている制度に着目し、京都府京丹後市で、NPOに配車システムを提供するかたちで、「シェアライド」への一歩を踏み出した。ウーバーは日本では、厳しい法律規制の枠内で事業の漸進的な拡大をめざす「行儀の良い」戦略をとっているのだ。
ニーズ発掘し切れず
これに対して台湾でのウーバーは、政府やタクシー業界とのガチンコ対決になり、業務休止に至ってしまった。この背後には、上でみた戦略の違いがある。さらに根本的な問題として、ウーバーが台湾では消費者を味方に付け切れなかったという事情があるのではなかろうか。
筆者が見聞きする限り、台湾でのウーバー擁護論は、主にハイテクスタートアップやイノベーション関係者らによる「ウーバーはシェアリングエコノミーの流れや、自動運転技術等と結び付いている。これを締め出したら、世界のイノベーションの潮流から遅れをとってしまう」という技術論の立場からの声が多い。「ウーバーは便利だからなくなっては困る」といった消費者の声は、あまり聞こえてこない。
これに対して米国では「ウーバーのおかげで便利になった、節約できた」と実感するユーザーや、「マイカーを利用して収入をアップできた」というドライバーの声がウーバーの成長を引っ張ってきた。その背後には、米国都市部での鉄道・タクシー事情の悪さ、マイカー利用者を悩ませる繁華街での駐車事情の悪さといった現実がある。日本でも、公共交通機関が廃れた過疎地で、お年寄りの買い物や通院を支援し、乗せる側にも所得が発生するシェアライドの仕組みは、人々を引き付けるだろう。いずれのケースでも、ウーバーは「満たされていなかったニーズ」を掘り起こして満たす役割を果たしている。
それでは台湾ではどうだろうか。都市部では便利な公共交通網や比較的廉価で迅速な配車サービスを備えたタクシー、自転車シェアリングといった豊富な選択肢がある。地方に行けば、潜在的には日本と同様のニッチなニーズがありそうだが、今のところ、人々は自家用車やオートバイと公共交通機関の組み合わせで対応をしており、切実な需要が顕在化するには至っていない。台湾は総じて、交通の便利な社会なのだ。
こうしてみてみると、ウーバーが台湾市場での挫折を余儀なくされた原因は、「満たされていなかったニーズ」を発掘できず、「ウーバーがいなくなると困る」という声を挙げてくれるサポーターを十分に育てられなかったことにもあるのかもしれない。
川上桃子
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