ニュース その他分野 作成日:2017年6月13日_記事番号:T00071079
台湾経済 潮流を読む類まれな2つの達成
数多くの台湾企業が挑みながら、なかなか果たせずにきた自社ブランド事業での成功の夢。世界最大のスポーツ自転車メーカーのジャイアント(巨大機械工業)は、長い努力の末にこの夢を現実のものとした数少ない台湾企業だ。その成功は、以下の点で意義深い。
第一に、ジャイアントが、単に「知名度の高いブランド」を確立しただけでなく、台湾に新たな自転車文化を創り出し、さらにその日本への移転が進みつつあることだ。近年、「しまなみ海道」での成功をはじめ、日本各地で、地方自治体がジャイアントと同社創業者の劉金標氏の協力を得てサイクルツーリズムの振興に取り組む試みが広がっている。台湾の自転車メーカーが地域づくりの旗振り役として日本側から頼りにされるようになっていることに、日台関係の新たな時代の訪れを感じる。
第二に、ジャイアントが、標準化された部品の組み合わせで構成される「モジュラー型」の製品である自転車で、持続的な競争力、ブランド力を維持していることだ。モジュラー型製品の市場競争の激しさを考えると、これは非常に興味深い達成である。
「モジュラー型」でのブランド構築
産業論では、規格化されたインターフェースに沿って標準化された部品を組み立てることで製品の機能が実現できるような製品を、「モジュラー型(組み合わせ型)」の製品と呼ぶ。パソコン、汎用(はんよう)工作機械、自転車などはその典型例だ。他方、乗用車や高級一眼レフカメラは、その開発に当たって、部品間の綿密な相互調整が必要になる「すり合わせ型」アーキテクチャの製品である。一般に、台湾企業はモジュラー型の製品に、日本企業はすり合わせ型の製品に強みを持つといわれている。
モジュラー型の製品は、市販部品の組み合わせで生産できるため、製品を差別化することが難しく、価格競争に陥りやすい。また、インテルのCPU、ファナックのNCコントローラー、シマノの変速機といった基幹部品メーカーが製品技術の行方を左右し、製品メーカーを上回る存在感を持つことも多い。買い手の側も、製品選びの際に、製品メーカーの名前より主要部品のブランドやスペックを重視することが多いため、メーカーがブランド力でもって顧客を囲い込むことが難しい。
Aチームとサイクリング文化
ジャイアントはなぜ、モジュラー型製品である自転車で、世界的なブランドを確立することができたのだろうか。
一口に「モジュラー型」といっても、PCやデジタル家電とは異なり、自転車の市場には、製品差別化の余地がほとんどない「ママチャリ」市場と、製品差別化の余地があるスポーツ用自転車の市場という異なるセグメントがある。ジャイアントは、後者のタイプの市場の裾野を自ら広げることで、自社ブランドの確立に取り組んできたと考えられる。
ジャイアントについては、しばしば、「Aチーム」の成功と、台湾にサイクリング文化を根付かせた功績が語られる。この二つも、ジャイアントが「モジュラー型製品での自社ブランド構築」という難しいチャレンジに成功できた重要な背景だ。
2003年にジャイアントの呼び掛けで始まり、ライバル企業の美利達工業(メリダ)、部品メーカーを巻き込んで広がった「Aチーム」の試みは、トヨタ式生産方式の吸収、製品の共同開発などを通じて台湾自転車産業の技術力の底力を押し上げてきた。ジャイアント製品の魅力は、性能の高さの割に値段が手頃なことにあると言われるが、その背後には、同社が旗振り役を務めた台湾の自転車産業全体のレベルアップの成果がある。ジャイアントは、台湾の産業クラスターの強みを生かして手頃な高機能スポーツ自転車を量産し、市場の裾野を広げてきた。
ジャイアントはまた、自転車文化のなかった台湾にサイクリングを根付かせるための取り組みでも、大きな成功を収めてきた。普通の人が台湾一周サイクリングに挑んだり、台北の街中をレンタサイクルが走り回ったりする日が来るなど、いったい誰が想像しただろうか。台湾社会が豊かになり、スポーツやレジャー、自然環境への関心が高まったことを割り引いても、ジャイアントが台湾に自転車文化を根付かせるために払ってきた努力には、驚嘆するほかない。
ジャイアントは、今年1月にカリスマ創業者たちからの事業継承を行い、新たな時代を迎えた。台湾企業の到達点を押し広げてきたジャイアントは、新体制の下で、どのような道を歩んでいくのだろうか。そして、ジャイアントが達成した「モジュラー型製品でのブランド確立」の道に続く台湾企業は果たして出てくるのだろうか。いずれも注目される。
参考文献)川上桃子・佐藤幸人「OEMと後発工業国企業の成長―台湾自転車産業・電子産業の事例分析」『立命館経済学』、2014年。
川上桃子
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