ニュース その他分野 作成日:2017年1月10日_記事番号:T00068422
台湾経済 潮流を読む回復軌道に乗り始めた輸出景況
一昨年(2015年)前半から低迷にあえいできた台湾経済に、昨年半ばごろからようやく薄日が差し始めた。財政部の発表によれば、昨年(16年)11月の輸出額は4年ぶりの高成長率を記録した。回復をけん引しているのは、モバイル機器向けの電子部品類の需要だ。
11月の輸出統計を品目別にみると、電子部品が前年同月比27%増、機械類が同17%、基本金属・製品が16%、光学機器が13%の増加と、軒並み大幅な成長となっている。地域別にみると、最大輸出先の中国向けが19%の伸びであった(いずれも米ドル建て)。
内需も比較的堅調である。ここ数年の台湾経済を下支えしたのは個人消費であった。昨年第3四半期の新車販売台数、スマートフォンの買い替え需要、外食支出等の個人消費支出の動向はおおむね堅調であった。民間投資も、昨年後半になってようやくマイナス成長を脱した。
昨年5月、変革への大きな期待を付託されてスタートを切った蔡英文政権は、取り組んだ課題の多くで苦戦を強いられ、支持率の低下に悩まされながら16年を終えることとなった。そんな蔡政権にとり、そろりそろりとながらも景気が回復軌道に乗りつつあることは朗報だろう。
好転するも続く低成長
この回復基調は17年にも続くという見方が一般的だ。昨年末に主要研究機関が発表した16、17年の実質GDP(域内総生産額)成長率の予測を見てみると、行政院主計総処がそれぞれ1.4%と1.9%、中央研究院(中研院)経済研究所が1.2%と1.7%、中華経済研究院(中経院、CIER)が1.3%と1.7%という予測値であった。
16年よりは回復する見込みであるものの、17年の予測値もいまひとつさえない数字ではある。図に示した過去10年間の実質GDP成長率の推移からもうかがえるように、10年代に入ってからの台湾経済は、年成長率2%前後の低成長率が常態化しつつある。中国への高い貿易依存度が構造化している中、その中国経済の成長率が低下していること、中国内で電子産業を中心とする地場サプライチェーンが興隆しつつあること、そして蔡政権下で中台関係が停滞を続けるであろうことを考えれば、急速な成長率回復というシナリオを思い描くのは難しい。
加えて、17年は文字通り不確実性の中での幕開けとなった。トランプ政権下で、米国の経済政策、対中国・アジア関係はどのように展開するのか。台湾が大きな関心を寄せていた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の頓挫は、アジアの地域統合の趨勢にどのような影響を引き起こすのか。不安の種は尽きない。
打開の鍵はどこに?
こう見てみると、不確実性と低成長が台湾経済の「ニュー・ノーマル」となりつつあるようにも思える。これを打破する上で期待されるのは、若い世代のイノベーションと起業に向けた活力ではないだろうか。
筆者は昨年、台湾とシリコンバレーで、台湾人のハイテク・スタートアップ起業家に話を聞いたり、彼ら・彼女らが集まる大型起業イベントに参加する機会を得た。そこで実感し、また台湾の専門家らとも意見の一致をみたのが、ここ数年の台湾で再び、起業への強い関心が盛り上がっているということだ。その中心は、20代から30代前半を中心とする高学歴・専門職の若者たちである。
00年代に入って、台湾では企業規模の大型化や産業のハイテク化が進み、かつての「中小企業の島」「老板の島」のダイナミズムが薄れたと目されていた。しかし、台湾のハイテク大企業の成熟化と中国移転が顕著になる中、米国や中国でのスタートアップ・ブームにも刺激を受けて、台湾でも若い世代が再び起業に取り組むようになっている。
ハイテク・スタートアップの常で、彼ら・彼女らのチャレンジの成功率は低く、雇用創出力も決して大きくはない。しかし、低成長率の構造化をもたらした中国依存型、ハードウェア系大企業中心の構造を打破する力が出てくるとすれば、それは、彼ら・彼女らの試行錯誤の中からではないだろうか。
林全行政院長は、昨年末のメディアとの懇談会で、17年を「建設の年にする」と語り、インフラ建設のほか、投資環境改善に向けた制度の整備に取り組みたいと語った。その「建設」が、若い世代の挑戦を支え、刺激するものとなることを期待したい。
川上桃子
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