ニュース その他分野 作成日:2016年11月8日_記事番号:T00067295
台湾経済 潮流を読む台湾の大型企業集団には、特定家族の所有・経営支配の下にあるファミリービジネスグループが多い。これらのグループには、オーナー経営特有の決断の速さや機動力といった強みがあるが、家族の不和や世代交代に伴う内紛や分裂の危機も付きものだ。
その危機を予見して、創業者らは、子供たちに「分業すれども分家はせず(分工不分家)」という遺訓を残すことが多い。しかし、カリスマ創業者亡き後も長期にわたってこれを実現できる家族は少ない。台塑集団(台湾プラスチックグループ)の王家、新光集団の呉家、長栄集団(エバーグリーン・グループ)の張家、中信集団の辜家など、台湾の名だたる事業家家族の多くが家族の内紛や不和、メンバーのトラブルに直面し、家族の事情が巨大な事業体に影響を及ぼす事態を招いてきた。
富邦集団・蔡兄弟の事業交換
その中にあって、創業者亡き後も円滑な世代交代と順調な事業拡大を遂げているのが、富邦集団2代目の蔡明忠・明興兄弟だ。この2人は、フォーブスが発表する台湾の富豪ランキングで、2015~16年の2年連続で首位に立った台湾最大の富豪兄弟でもある。
この2人が先月半ば、かねてより計画を進めていた「事業交換」を行って話題を呼んだ。富邦グループの主力事業は、従来からの本業である金融事業(富邦金融控股)と、1990年代後半から新たに投資を進めた通信事業(台湾大哥大)の二本柱から成る。この10年ほどは兄が前者、弟が後者の董事長を務める分業関係にあったが、先月、その座を互いに交換し、明忠が台湾大哥大、明興が富邦金融控股の董事長の座に就いた。従来の分業関係は、さまざまないきさつにより、2人が本来得意とし、力を注いできた事業分野とは逆転した構図となっていた。今回のポジション交換により、長年にわたる「ねじれ」が解消され、共に有能な事業家である明忠・明興がそれぞれの意中の事業を担当する体制になったことは、グループの長期的な発展にとってプラスとなるだろう。
なお、今回の人事交代により、兄はより規模の大きな金融事業の董事長職を弟に譲ることになったが、同時に、新たに設けた「富邦集団董事長」というポジションに就くこととなった。1歳違いの兄弟のバランスを巧みに取った配置であるといえよう。
創業者存命中の体制づくり
蔡家はなぜ、多くの有力ファミリーがなかなか実現できない円滑な事業継承と、兄弟間で分業しつつ重要な決定は共に行う「分工共治」の体制を維持できているのだろうか。
家族間の人間関係や事業内容はそれぞれ異なるので、一般論を語るのは難しい。しかし、筆者がこれまで観察してきた代表的なファミリービジネスの事例を見る限り、以下のポイントが鍵になるようだ。
まず、創業者が健在なうちから、継承に向けた新たな体制づくりが進んでいること。創業者の突然の死がグループに混乱をもたらすのは必然だ。富邦グループのように創業者が長寿で、存命のうちに次世代への経営継承が進んだケースは理想的だ。
次に、この新たな体制が、家族の主要メンバーにとって納得のいくものになっていること。華人家族の伝統的な財産継承の基本原理は、男子間の均等配分である。所有権は、株式の配分を通じて、女性を含む家族メンバー間で平等に継承することが可能だ。問題は分割不能な経営権の継承である。富邦集団のように、2人兄弟が二本柱のグループを分業経営するのなら問題は少ないが、グループの主力事業のバランスと兄弟間の関心や力関係がうまくマッチしないと厄介だ。
この問題に対応するため、台湾の事業家族はしばしば、「パイを子どもの人数で割る」のではなく、「人数分のパイを焼く」と形容される行動に出ることがある。息子のそれぞれに活躍の舞台を用意すべく、新規事業に乗り出すといった動きだ。しかし、この試みがうまくいくとは限らない。そして、たとえ家族メンバーのそれぞれに活躍の舞台が用意できたとしても、経営不振に陥る事業が出現してグループの足を引っ張る事態になれば、それもまた不和や分裂の引き金になる。
ファミリービジネスの難しさ
さらに、世代交代がスムーズにいったとしても、世代が下るにつれ、家族間の求心力が薄れ、実質的な「分家」へと向かうのは自然の流れだ。そもそも、オーナー家族が優れた経営者になれる保証がない以上、家族所有経営型のグループにはどうしても属人的なリスクがつきまとう。各グループとも専門経営者の育成・登用に力を入れてはいるが、ファミリービジネスの若いメンバーは、家族や友人に対するメンツもあって、経営者としての手腕を発揮したい、家族や社会から認められたい、という強い思いを抱くことが少なくない。所有者としての役割に徹して経営を専門家に任せる方が賢明だとは分かっていても、事業家族のメンバーがそう振る舞うとは限らない。
上でみたような条件をクリアしてもなお、ファミリービジネスが「分工不分家」という親世代の規範を守り、事業成長という経営の論理を追求していく道のりには、数々の困難が待ち受けているようだ。
川上桃子
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