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第20回 商標侵害賠償債権の移転


ニュース 法律 作成日:2008年4月30日_記事番号:T00007099

産業時事の法律講座

第20回 商標侵害賠償債権の移転

 
 台湾と日本は商習慣が違うため、商業関連の法律上の手続き規定も異なります。商業上の紛争が2つの国にまたがる場合、手続き規定の違いが、法律行為の効果に影響することがあります。従って、国をまたいでの法律行為を行う際は注意が必要です。

 先日、台湾の最高裁判所で下された判決で、日本の法律に基づき、日本で行われた法律行為が認められました。これは参考に値すべきものです。

 この案件の当事者は、日本の「理想科学工業株式会社」です。台湾で「RISO」を「インク製品」として商標登録し、「元茂国際企業股份有限公司」を販売会社として台湾でインクを販売していました。2001年、被告となる「仟堡企業有限公司」が、理想社のインクカートリッジを回収し、ノーブランドのインクを注入して販売し、理想社の商標権を侵害しました。このため理想社の会長は元茂公司に「損害賠償請求権譲渡契約書」を発行し、元茂公司が仟堡公司に対し、損害賠償を求めて提訴しました。

 これに対し、一審の台北地方法院(地方裁判所に相当)、二審の高等裁判所とも、元茂公司の請求を棄却する判決を下しました。以下、その理由を見てみましょう。

判決の内容:

1. 台湾の法律の規定では、公証人は当事者が署名をしたことを自ら確認しなければ、契約の公証を行うことはできない。しかし日本の法律および商習慣では、公証人は代理人が所持する「本人のサインのある文書」、および「本人の押印がある委任状」を基に、「本人のサインのある文書」に公証を行ってもよいことになっている。そのため、本案の損害賠償譲渡契約書は認めることができる。

2. 損害賠償譲渡契約の第4條には、「損害賠償債権譲渡に関し、中華民国の法律をその準拠法とする」と規定しており、「仟堡公司に対する損害賠償請求権は2,500万台湾元(約8,530万円)の範囲内で、元茂公司に譲渡することができる」としている。しかし、台湾の会社法第202条の規定によると、この種の契約は会社の取締役会の職権の範囲内で、会長個人には決定権がなく、契約は無効である(台湾高等法院07年10月16日2007-42号判決)。

 元茂公司は二審判決を不服として上告し、この中で損害賠償譲渡契約が有効であると主張しました。そして、最高裁判所は08年1月31日、高等裁判所の判決を破棄し、差し戻すという逆転判決を下しました。その判決理由は以下の通りです。

理由:

 本案の損害賠償譲渡契約書第4条に記載のある、「中華民国の法律を本契約の準拠法とする」という条文は、理想社と元茂公司の間での損害賠償請求権の譲渡によって発生した紛争に関して、台湾の法律を準拠法とするという意味である。しかし、理想社内部において、損害賠償請求権の譲渡を決定した時点では、元茂公司との契約はまだ締結されていなかった。このため、理想社による譲渡の決定は、第4条の「中華民国の法律を準拠法とする」という規定を適用することはできないと解釈するべきである。

 従って本案は、「台湾の会社法の規定にある『蕫事会で決定しなければならない』点を満たしていないため、理想社の会長は会社を代表して商標侵害に関する損害賠償請求権を譲渡することはできない」、と解釈するのは適当ではない。

 以下、最高裁判所の判決のポイントです。

最高裁判所の判決のポイント:

1. 台湾の裁判所が日本で行われた公証を尊重する態度を示し、日本の法律および商習慣に従って行われた公証を有効だと判断した。

2. 台湾の裁判所が、日本で成立した法律行為に対してその効力を原則的に認め、たとえ契約書に台湾の法律を適用するとの規定が設けられていても、裁判所はそれを制限する解釈を行い、権利者に不必要な負担をかけないことができるとした。


徐宏昇弁護士事務所
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