ニュース その他分野 作成日:2017年12月12日_記事番号:T00074442
台湾経済 潮流を読む急成長する台湾EC市場
台湾の電子商取引(EC)市場が、急拡大を遂げている。行政院主計総処の調査によると、過去5年のEC取引高の年平均成長率は12%と、日本の平均3%を大きく上回った。2015年の人口1人当たりのEC消費金額は約2万7,000台湾元と、日本(平均2万8,600元)とほぼ変わらない水準だ。特に注目されるのが、個人向けのEC市場の広がりだ。日本のEコマースでは、B2B(企業対企業)が95%と圧倒的で、B2C(企業対個人)はわずか5%にすぎない。これに対して台湾では、B2Cの比率が20%に達している。卸売小売業の売り上げに占めるEC売上の比率は5%弱(15年)とまだ高くはないが、人々の日常生活の中にEコマースが急速に浸透していることが見て取れる。
老舗企業に挑む外資ベンチャー
現在、この成長著しい台湾のEC市場をめぐって、新旧両勢力の間で白熱した戦いが起きている。20年にわたって台湾のEコマースの発展を牽引してきた業界最大手の網路家庭(PCホーム)が、2年前に台湾市場に参入したばかりのシンガポール系の新興ECサービス、ショッピー(蝦皮)の激しい攻勢に遭い、利益率や株価の急落に苦しんでいるのだ。
PCホームは、96年に設立された老舗企業である。創業者の詹宏志氏は出版人、映画人としても知られ、最近ではアジア太平洋経済協力会議(APEC)ビジネス諮問委員会の台湾代表に任命されて話題になった著名人だ。PCホームは傘下にB2C(「PCホーム24h」など)、B2B2C(モール型サイトの「PCホーム商店街」など)、C2C(オークションサイトの「露天拍売」など)を擁する。このうち、同社の主力ビジネスはB2Cだが、近年はC2Cにも力を入れている。富邦グループのmomoといったライバルも頭角を現しているが、早くから自社倉庫等のインフラに投資をして優位性を高め、抜群の知名度を誇ってきたPCホームは、まさしく台湾EC業界の盟主だ。
一方のショッピーの運営主体は、シンガポールの大型インターネット企業、Sea社である。09年に創業した後、オンラインゲームから電子決済サービス、モバイルECへと展開して、東南アジアを代表する大型ベンチャー企業へと発展した。同社の大株主は、ゲームや微信(WeChat)の提供で知られる中国の巨大インターネット企業、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)である。そのため台湾ではショッピーについて「中国系のバックグラウンドを持つ」と警戒する声もある。
ショッピー躍進が突き付ける課題
ショッピーは15年秋に台湾市場に参入した。その主戦場はC2Cだ。台湾進出からわずか2年で、同社の通販アプリのダウンロード件数は1,000万件を超え、月当たりの取引件数は800万件を超えるまでに発展した。日本でいえばメルカリのような、破竹の勢いだ。
現時点で台湾市場に限っていえば、長い歴史を持ち、B2Cに強みを持つPCホームの方が格段に事業規模が大きく、台湾市場をめぐる両者の構図はさながら「巨人と一寸法師」の戦いのように見える。しかし、ショッピーを営むのは、アジア有数のベンチャー企業であり、そのバックには中国の巨大ネット企業、テンセントがいる。加えてショッピーの躍進は、以下のような点で、PCホームの事業の先行きに暗雲を落としている。
スマホ向けで若者取り込み
第一に、ECの主戦場がパソコンからスマートフォンへシフトしつつあることがPCホームには不利に働いている。PCホームは、その歴史の長さや名前からも分かるように、PC時代に急成長を遂げてきた。それゆえ、たとえば傘下の「露天拍売」には1億点近い商品が出品されているが、その閲覧環境をPCに適したものからスマホに適した環境へと移行する上では、多大な労力が伴うことになった。一方、後発のショッピーは当初からモバイル利用に焦点を絞ってプラットホームを構築してきた。そのため、ユーザーが商品をスマホで写真を撮り、すぐにウェブにアップする、という手軽な使い方が便利にできる。この差はまた、「中高年ユーザーの比率が高いPCホームと、若者・学生中心のショッピー」という主力顧客層の差に直結している。若くて勢いのあるライバルの出現は、PCホームという老舗の「古臭さ」を一気に可視化してしまった。
第二に、ショッピーが台湾市場への参入に際して、取引にかかる手数料や配送料の無料化といった各種の「補助」政策を採り、ユーザーの囲い込みに成功したことも、PCホームには脅威となっている。ショッピーは直近では、顧客引き付け策が成功しつつあることから、出品者への金銭面でのサポートを徐々に解除している。これに対してPCホームは、ショッピーへの対抗策、出店者・出品者の取り込み策のため、大規模な資金調達を行い、出店料や配送料等の優遇策を打ち出している。ショッピーの登場が、PCホームを激しい価格競争に巻き込んでいるのだ。実際、同社の利益率は16年第1四半期以降、急速に下降している。
ショッピーを運営するSeaは、急成長するアジアのゲーム市場を軸に、決済サービス、通販事業などを相互に連携させながら急成長を遂げてきた。テンセントが先鞭(せんべん)をつけ、Seaの躍進で注目を集めるこのビジネスモデルは、インターネット事業の多角化の成功モデルの一つにりつつあるように思われる。PCホームvsショッピーの「台湾の役」は、単に「台湾本土派vs外資系」「PC時代から続く通販vsモバイルEC」の市場競争といった構図を越えて、アジア大で広がるインターネットビジネスの新たな事業モデルのゆくえを占うものなのかもしれない。
川上桃子
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