ニュース その他分野 作成日:2018年3月13日_記事番号:T00075937
台湾経済 潮流を読む台湾は、アジアの中でもジェンダー平等度の高い社会として知られる。国会議員や企業の管理職・マネジャー層に占める女性の比率は日本より数段高い。男女間の賃金格差も、日本の33%に対して台湾では15%(2015年)と小さい。台湾は、日本が学ぶべき「女性活躍」の先進国だ。
労働市場での男女の平等度が高い背景には、女性の就労パターンの違いがある。日本では、結婚や出産を機に労働市場から退出し、子育てが一段落した後で再び働き始める女性が比較的多い。いわゆる「働き盛り」の時期に長く仕事を離れるため、中高年になってから就職しても、仕事の機会が大きく制約されてしまう。これに対して台湾では、出産後も仕事を続ける女性が多いため、キャリアアップの機会がさほど制約されない。企業側も、子どもを持つ女性を「マミートラック」に分離してしまうことをせず、意欲と能力のある女性を積極的に登用する傾向がある。
40代で逆転する就労率
しかし、台湾の女性労働には、「働き盛り」の年代の就労パターンだけに注目していると見落としてしまいがちな一面がある。図には、日本と台湾の性別、年齢別の就労率を示した。台湾では男女とも、50代に入ると就労率がぐんと下がり、日本と逆転する。特に目立つのが、女性の労働市場からの早期退出である。台湾女性の就労率は40代後半には日本と逆転し、その後、急速に低下するという特徴を持つ。
「世代遅れ」の性別分業
台湾の労働者の早期退職について、研究者らは、①制度上の理由(早期退職制度や年金受給の前倒し支給制度が、早い退職を後押ししてきた)、②産業構造上の理由(中小企業が多く企業の新陳代謝が早いこと、技術変化が早いことから退職年齢まで働き続けるチャンスが低い)、③文化的理由(中華圏に広く共通する「高齢の親を働かせるのは子のメンツに関わる」「老後は孫の世話をしながらのんびり暮らすのが幸せ」といった価値観の影響)といった観点から説明してきた。しかしこれらの理由では、なぜ女性が男性に比べて早く労働市場から退出するのかが説明できない。
台湾の女性が早々と引退する大きな理由の一つとして考えられるのが、孫の世話をめぐる家庭内分業だ。上述のように、台湾では「働き盛り」の女性は、働き続ける傾向が高い。しかし、「保活」が社会問題化している日本に比べても、台湾は保育所が整備されていない。そのような中で、子どもの世話の主役となっているのが「親族」だ。15~49歳の既婚女性に「3歳未満の子どもの世話を主に誰がしているか」を尋ねた行政院主計総処のデータ(16年)をみると、「自分と夫で」が52%、「親族」が39%であった。これに対してベビーシッターは9%、保育所にいたってはわずか1%という低さであった。
ここでいう親族は、主に祖父母を指すと思われる。特に祖母にあたる女性が「孫育て」の主力になっているとみられる。主計総処の調査から、50代後半の非就労者に働いていない理由を尋ねた調査(15年)をみると、「家事のため」と答えた割合が、女性では87%もいたのに対して、男性ではわずか5%にすぎなかった。台湾の女性たちは、仕事をやめても優雅な退職生活に入るわけではなく、家族のサポート役に回って忙しく働き続けているのである。
日本では、育児や家事をめぐって、子どもの父親と母親の間で性別分業が行われている。これに対して、台湾では、働き盛りの女性は子どもが生まれても夫とともに働き続けて家計を支え、祖父母、中でも祖母が育児に大きな役割を果たす傾向が高い。50代以降の女性の労働市場からの早い退出の背後には、この「1世代先延ばしにした育児」と、高齢期になって起きる性別分業があるものと思われる。
求められる高齢労働者の活用
しかし、台湾では少子高齢化が急速に進んでおり、これまでのような早期の引退や家族内相互扶助のあり方は変化を迫られつつある。若い世代の低賃金問題、年金受給年齢の引き上げといった現実的な変化も、「早く仕事をやめて、孫の世話をする」という従来のシニアライフのあり方を変えていくだろう。台湾はこれまで、人手不足を外国人労働者に頼ることで乗り越えようとしてきた。しかし、急速な高齢化の進展とともに、高齢者の就労促進が重要な課題になってくるはずだ。
筆者は、台湾の女性の友人たちが「台湾の労働市場は高齢女性に差別的だ」と話すのを聞いたことがある。彼女たちが何を指していたのかは定かではないが、これまでの台湾では、高齢女性が働き続けにくい、良い仕事を見つけにくい状況があったのかもしれない。これに対して日本は、元気に働き続けるシニアが多い社会だ。女性の活躍という意味では台湾に大きく後れをとってきた日本であるが、高齢者の活用という点では、もしかすると台湾によい手本を示せるのかもしれない。
川上桃子
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