ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム グループ概要 採用情報 お問い合わせ 日本人にPR

コンサルティング リサーチ セミナー 経済ニュース 労務顧問 IT 飲食店情報

第128回 18年の台湾経済を展望する


ニュース その他分野 作成日:2018年1月9日_記事番号:T00074900

台湾経済 潮流を読む

第128回 18年の台湾経済を展望する

好調のうちに幕を閉じた17年

 行政院主計総処や主要研究機関による2017~18年の台湾経済の成長予測のプレスリリースが出そろった。結論を先取りすれば、17~18年は、台湾経済にとって「悪くない」局面となりそうだ。表には、主計総処発表の域内総生産(GDP)成長率の実績(予測)値の一部を掲げた。17年の経済成長率は2%台半ば、18年は若干下がって2%台前半となる見通しである。

/date/2018/01/09/06koram_2.jpg

 むろん、00年代半ばまで毎年5~6%の経済成長を遂げていたことを思えば、これは決して良い数字とはいえない。しかし、15年の0.8%、16年の1.4%から、緩やかながら上昇軌道に乗ったことは、若者の低賃金問題の解決の糸口も、エレクトロニクス産業に代わる新たな成長セクターの興隆の兆しもいまひとつ見当たらず、経済の成熟化とともに低成長時代を迎えている台湾経済の現状の中にあっては明るいニュースだ。

 とはいえ、17年の好成績は、主に世界経済の好況という外的要因による部分が大きい。中華経済研究院(中経院、CIER)の推計では、17年の成長率2.6%のうち、外需の寄与率は1.4%と、内需の寄与率の1.2%を上回った。米・日をはじめとする先進国、中国をはじめとする新興国の経済がおおむね好調に推移したことが、貿易依存度の高い台湾経済にも追い風となった。

 輸出の伸びをけん引したのが電子部品だ。Global Trade Atlasで17年1~10月累計の輸出額を見ると、HS85(電気機器等)の対前年同期比はプラス14%で、HS8542(半導体等)は、対前年同期比プラス18%であった。

堅調な消費、低迷した民間投資

 内需では消費が2.1%成長と堅調だった。失業率が改善した(17年11月時点で3.7%)ことに加え、株式市場が活況を呈し、人々の消費意欲を刺激したことも好材料となった。ちなみに表からも分かるように、ここ数年、消費の伸び率は堅調に推移しており、台湾経済の重要な突っかい棒の役割を果たしている。

 一方、17年の成長率関連のデータの中で、18年以降に向けた懸念材料となったのが民間投資の停滞だ。対前年の実質成長率はわずか0.1%増と低迷した。大型半導体メーカーの設備投資が伸び悩んだことなどが主な要因だが、民間投資は経済成長のエンジンであり、その低迷は、イノベーション主導型経済への転換を図る台湾経済に暗い影を落とす。

18年の展望:内需主導型の成長?

 主要機関の経済予測では、18年の台湾経済は、17年よりも内需に軸足を置いた成長となる見通しだ。主計総処の見通しでは、引き続き消費の伸び(2.1%増)が下支え役を担うとともに、固定資本形成の伸び率が3.8%に回復して、経済成長に貢献するというシナリオが示されている。

 注目されるのが、政府投資の対前年9.8%増という予測だ。政府は「前瞻基礎建設計画」や「5プラス2イノベーション産業計画」による活発な政府投資が民間企業の投資を呼び込むという見通しを立てている。このシナリオがうまく運ぶかどうかが、18年の台湾経済のポイントとなりそうだ。また中長期的には、安価な賃金を求めて流出を続けてきた製造業の生産拠点が、生産の自動化の進展や中国の投資環境の悪化等を受けて台湾内に回流するかどうかが注目される。

 なお、昨年秋に筆者が台湾で経済予測の専門家らに話を聞いた際には、18年の民間消費について、公務員給与の3%引き上げというプラス材料がある一方で、段階的実施が決まった年金改革がもたらすマイナスの心理効果を指摘する声もあった。いわゆる「軍公教」の退職シニアたちは、経済的に余裕があり、消費や余暇の面では割合にアクティブであったとみられる。実際にどの程度の影響が出てくるのか、注目されるポイントの一つだ。

政府のシナリオの達成はなるか?

 行政院は、昨(17)年2月に発表した「国家発展計画」の中で、17~20年のマクロ経済目標を複数のシナリオごとに示した。世界経済が堅調に推移するとの前提の下、この期間の台湾のGDP成長率について、「ベースラインシナリオ」として平均2.4%、政府の積極的な投資が民間企業の投資を誘発するシナリオが実現した場合で3.0%、政府が積極策を取り、かつ外的要因による下振れが生じた場合は2.5%という見通しを提示している。

 17~20年の見通しを見る限り、政府のインフラ投資が順調に進んだとしても、成長の現実は「ベースラインシナリオ」に近いものとなるのではないだろうか。いずれにせよ、成長率の行方にもまして、政府の積極的な投資や産業育成策が、果たして狙い通りに停滞気味の民間投資の成長を刺激し、新たな活力を引き出せるかどうかが、台湾経済の今後を占う上での注目点になりそうだ。

川上桃子

川上桃子

ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター次長

91年、東京大学経済学部卒業、同年アジア経済研究所入所。経済学博士(東京大学)。95〜97年、12〜13年に台北、13〜14年に米国で在外研究。専門は台湾を中心とする東アジアの産業・企業。現在は台湾電子産業、中台間の政治経済関係、シリコンバレーのアジア人企業家の歴史等に関心を持っている。主要著作に『圧縮された産業発展 台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム』名古屋大学出版会 12年(第29回大平正芳記念賞受賞)他多数。

台湾経済 潮流を読む