ニュース その他分野 作成日:2018年6月12日_記事番号:T00077558
台湾経済 潮流を読む増加する日本への留学生
過去10年の間に、日本で学ぶ台湾人留学生の数は倍増した。最新年度の状況をみると、台湾教育部の統計では約5,100人、日本側の統計では約9,000人の台湾人留学生が日本で学んでいる。これは10年前に比べてそれぞれ2.4倍、1.9倍に当たる。台湾からの来日観光客の急増ぶり(10年で3.3倍に増加)に押されてさほど注目されていないが、留学という人生の一大イベントに当たって日本を選ぶ台湾の若者が増えていることは、重要な変化だ。
下図には、受け入れ国の留学ビザ発行ベースでみた台湾人の留学先の国別構成の推移を掲げた。日本への留学生が占める比率は、2006年度の6%から16年度には13%にまで上がっている。
日本に留学する台湾人が増加した背景として、いくつかの要因が挙げられる。まず日本側の要因として、08年に発表された「留学生30万人計画」により、大学や日本語学校による外国人学生の受け入れが急速に拡大したことがある。
一方、台湾の側でも、留学先の選択行動に変化が生じた。その昔、台湾人の憧れの留学先といえば何といっても米国であった。1990年代前半まで、留学のために渡米した多数のエリート学生たち、中でも理工系の人材は、卒業後も米国にとどまって就職し、定住する道を選んだ。留学は、豊かで自由な米国への移民の切符にほかならず、日本行きに比べて圧倒的に魅力的な選択肢であった。
00年代以降も米国は依然として台湾人の最大の留学先だ。しかし、就職・定住を視野に入れて米国留学に行く人の数は減っている。留学生の人数は08年をピークに減少傾向にあり、留学生全体に占めるシェアもこの10年で44%から36%に、約8ポイント低下した。英国やカナダへの留学生も減少傾向にある。
このような留学の「欧米離れ」の背景にはさまざまな理由があると思われるが、米国で学ぶ中国人、インド人の理工系人材が急増し、奨学金の獲得や就職をめぐるアジア人同士の競争が厳しくなったこと、台湾の就職環境やハイテク産業での待遇の改善とともに米国への留学・就職の期待収益が下がったこと、といった変化が関係しているとみられる。留学の目的が、教育を通じた移民から、台湾での就職に役立つ経験やスキルの獲得へと移るに従い、留学にかかる費用が相対的に低く、文化的・心理的にも距離が近い日本への関心が高まったのではないだろうか。観光や文化交流を通じて日本での進学や語学留学に興味を持つようになった若者の増加も大きいだろう。
問われる日本企業の姿勢
留学生はしばしば、母国と留学先の交流の橋渡し役となり、経済的なリンケージのつなぎ手となって、国境を越えたビジネスの活性化を引き起こす。日本の「留学生30万人計画」も、学業を終えた後、日本で就職して活躍する外国人人材のすそ野の拡大を視野に入れた計画だ。実際、台湾と米国の間では数十年にわたって、留学生出身の技術者、起業家らを通じた技術や知識の拡散、企業間の提携が活発に行われてきた。しかし、台湾からの留学生が日本との間でそのような大きな役割を果たせるかというと、いくつかの理由から容易ではなさそうだ。
留学生が活躍できるためには、まず、日本企業の側の外国人の採用・登用への意欲が大前提となる。しかし、大企業を中心に、アジアでの事業展開に不可欠なパートナーとしての留学生に高い期待を寄せる日本企業が増えている一方で、まだまだ及び腰の企業が多いのが実態ではないだろうか。また筆者は、若者を含む数多くの台湾人から「日本は旅行先、留学先としては魅力的だが働くところしてはしんどい」「日本には住みたいが、日本企業では働きたいと思わない」という声を聞いてきた。従業員の同質性が高く、実力主義とは言い難い日本企業の人気は、決して高くはない。
さらに、留学先として、欧米に比較して「選ばれる」ようになった日本ではあるが、その座も決して安泰とはいえない。近年、中国の大学に進学する台湾の高校生が徐々に増えており、最近発表された中国政府の「恵台31項目」(31項目から成る台湾企業、台湾人向け優遇策。https://www.ys-consulting.com.tw/news/76410.html)のインパクトもあって、今後はさらに増えることが見込まれるからだ。
留学先の選択に当たって、学生本人やそのスポンサーである家族・親族らは、学費や生活費といったコスト面の要因、卒業後の就職までを視野に入れたポテンシャル、その国の経済・社会・文化の魅力といったものを総合的に勘案する。魅力的な留学先、就職先として台湾の留学生に選ばれるために、日本の社会と企業が努力すべきこと、改善すべきことは多そうだ。
川上桃子
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