ニュース その他分野 作成日:2018年11月13日_記事番号:T00080352
台湾経済 潮流を読むTPPに期待していた台湾
米国を除く11カ国による「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(CPTPP、TPP11)が、12月30日に発効することとなった。環太平洋経済連携協定(TPP)は2015年にいったん大筋合意にこぎ着けたものの、17年1月にトランプ政権が離脱を宣言したことで、崩壊の危機に直面した。ここからの仕切り直しを経て、世界の国内総生産(GDP)の13%を占める自由貿易圏が成立することになる。▽タイ▽インドネシア▽韓国──の他、欧州連合(EU)離脱を控えた英国も関心を示しており、来年からは、これらの国々との拡大交渉も始まる見通しだ。
台湾は早い時期から強い関心を持ってTPPの行方を見守ってきた。台湾の17年貿易額に占めるTPP11参加国の比率をみると、輸出で21%、輸入で29%に上る。最大の貿易パートナーである中国の28%(輸出)、19%(輸入)と比肩する水準だ。
ちなみに、台湾がTPPと同じく参加を目指してきた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、▽中国▽日本▽東南アジア諸国連合(ASEAN)──を含む16カ国が進めている構想なだけにこの比率が格段に高く、仮に台湾が参加すれば、輸出で60%、輸入で59%を占めることになる。
TPP参加国との貿易が占める比率はこれに比べるとかなり低い。それでもTPPは台湾にとって、大きな意味を持つと考えられてきた。▽広範な分野を対象とする高水準のメガ自由貿易協定(FTA)であること▽台湾のFTA政策の行く手を阻む中国がメンバーに入っていないこと▽仮に加盟が実現すれば、貿易面での対中依存の是正につながる効果が期待されたこと──が主な理由である。
「置いてきぼり」への焦り
アジアでは10年代以降、二国間のFTA締結の波に加えて多国間FTA交渉の機運が高まった。こうした潮流の中で、台湾は「置いてきぼり」の状況を余儀なくされてきた。正式な政府間協定が締結できず、また台湾のFTAの試みは中国によって厳しくけん制されてきたからだ。経済面でライバル関係にある韓国がFTA締結に積極的に取り組み、高いFTAカバー率を誇るようになったこともあって、台湾では「世界の潮流から取り残され、貿易面で不利になってしまう」という強い焦りが生じていた。
馬英九政権の第1期には、中国との関係が良好であったため、10年の両岸経済協力枠組み協定(ECFA)の締結に続いて、13年にはニュージーランド、シンガポールとの間で、民間協定の形によりFTAを締結することができた。しかし、14年の「ヒマワリ学生運動」の勃発、16年の民進党への政権交代を経て、台湾のFTA政策は再び、中国によって行く手を阻まれるようになった。TPPについては、米国と日本が台湾の参加を歓迎する意向を示していたことが、台湾にとっては心強い材料となっていたが、トランプ政権の成立と米国の離脱によって、台湾の最大の後ろ盾がなくなってしまった。
トランプ政権の副産物?
一方で、トランプ政権の成立によってにわかに保護主義が高まる中、台湾の官僚や学者たちが抱いていた「台湾が世界の潮流から取り残される」という危機感は、いくらか薄らぎつつあるようだ。
米中貿易摩擦の高まりとともに、台湾を悩ませてきた中国一辺倒の投資・貿易構造に変化が生じつつあることも、台湾にとっては思いがけない副産物だ。このところ、過去10年ほどの間に進んだ中国の投資環境の悪化もあって、製造業の台湾回帰の動きや、東南アジアなどへの投資多角化の動きを伝えるニュースが増えている。蔡英文政権が「新南向政策」の旗を振っても思うようには進まなかった台湾経済の対中依存からの脱却が、トランプ政権の登場によって、始動しつつある。
むろん、米中貿易摩擦の高まりや保護主義の流れは、世界経済にマイナスに働き、中国、米国経済に大きく依存する台湾にも多大な跳ね返りを生む。しかし、筆者が最近、意見交換した台湾の政策関係者や研究者らは、そのダメージを懸念しつつも、「台湾にとっては悪いことばかりではない」とも話す。FTAの潮流の中で孤立化を強いられ続け、その原因でもある中国に経済的に依存するというジレンマを抱えてきた台湾からみれば、多くの国が神経を尖らせているトランプ政権の対外経済政策も、単なる「災厄」というだけではない、より複雑な含意を持つようだ。
川上桃子
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