ニュース その他分野 作成日:2019年2月12日_記事番号:T00081916
台湾経済 潮流を読む台湾に依存する中国の半導体輸入
中国では、2014年に「国家IC産業投資基金」が設立されて以来、半導体産業の育成に巨額の資金が投入されてきた。中国政府は、大規模な資金支援や税制面での優遇策等を通じて、大型工場の立ち上げと技術面でのキャッチアップに力を注いでいる。その野心的な産業支援策は、米中経済摩擦の火種ともなっている。
中国が半導体産業の育成に力を注ぐのは、半導体が、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、軍事技術といった戦略的なセクターの根幹を握る中核技術であり、かつ現時点では、半導体需要の多くを輸入に依存している状況にあるからだ。
18年の中国の集積回路(HSコード8542)の輸入額は約3,131億米ドル(輸入額全体の15%)と、16年の2,304億米ドル(同15%)から大幅に増加した。18年の輸入元をみると、1位が台湾(輸入全体の31%)、2位が韓国(25%)であった。台湾では、中国への貿易依存度が非対称に高いことが問題視されて久しいが、実は中国の側も、半導体の貿易に関する限り、台湾に大きく依存していることが分かる。
加速する人材引き抜き
米中ハイテク摩擦が高まる中、半導体の供給を海外に依存していることへの中国政府の危機感は、切迫したものとなっている。ここ数年、半導体の輸入依存度を引き下げるため、中国が「輸入」に力を入れているのが、台湾の半導体人材だ。
15年には、華亜科技(イノテラ・メモリーズ)の元・董事長で、「台湾DRAM界のゴッドファーザー」として知られる高啓全氏が、紫光集団に引き抜かれた。同氏は、18年12月に、DRAM、フラッシュメモリー製造の中国・武漢新芯集成電路製造(XMC)のCEO(最高経営責任者)に就任した。また17年には、台湾積体電路製造(TSMC)の研究開発(R&D)処長として辣腕(らつわん)を振るった後、サムスン電子に移り、同社のファウンドリービジネスに大きく貢献した大物技術者・梁孟松氏が、中国・中芯国際集成電路製造(SMIC)の共同CEOに就任した。
むろん、中国に引き抜かれるのは、このような重量級のエンジニアたちだけではない。ロイター通信ニュースが台北の転職支援企業の話として昨年9月7日に伝えたところでは、中国政府が14年に「IC産業投資基金」を設立して以来、台湾の半導体メーカーから中国に渡った人の数は1,000人近くに上るという。また、18年だけでも、秋までの時点で300人を超える上級エンジニアが中国企業に転職したという。
『遠見雑誌』『財訊双周刊』の報道によると、新竹科学工業園区(竹科)からほど近い台元科学園区は、中国による台湾の半導体人材スカウトの最前線拠点として知られる。同園区や、台湾高速鉄路(高鉄)の新竹駅近くの商業ビルには、半導体設計企業を中心に、多数の中国の半導体企業が、中国系であることを知られぬよう、ひっそりとオフィスを構えているという。
近年、TSMCのような傑出した高待遇を用意できる企業を例外として、竹科のハイテク企業の多くが、深刻な人材不足に悩まされるようになっているが、その背景には、工学部卒業生の数が減っていることに加えて、このような中国による激しい人材引き抜きの影響がある。
限定的な法律改正の効果
第一線のエンジニアの中国企業への流出は、中国企業の追い上げと、エンジニア人材不足に直面する台湾の半導体業界にとって極めて厄介な問題である。さらに深刻なのは、中国企業が高給や高いポジションへの登用と引き換えに、しばしば、台湾人エンジニアに勤務先の重要な技術情報を「手土産」として持ってくるよう求めることだ。
『財訊双週刊』(18年2月号)の記事によると、中国による産業スパイ事件の舞台は、かつての液晶パネル産業から、近年では半導体産業へとシフトしている。ちなみに、過去3年に台湾の半導体産業で起きた8件の営業秘密漏洩(ろうえい)事件のうち3件が、台元科学園区に入居している中国企業がらみのものだったという。
台湾では、ハイテク企業からの強い要望を受けて、13年に「営業秘密法」が改正され、秘密漏洩に対する刑事罰が盛り込まれた。しかし、このような厳罰化は、一定の歯止めにはなっても、中国が提供する報酬額の大きさを考えると、根本的な解決にはほど遠い。台湾のパネル産業は、中国への人材流出と、中国企業の急速なキャッチアップによって、かつての輝きを失った。パネル産業で台湾が歩んだ道を、半導体産業で繰り返さないためには何ができるのか。企業の模索は続きそうだ。
【参考文献】
遠見雑誌「連年欠工7000人竹科人才荒怎麼解?」17年11月号
財訊双週刊「潜伏竹科的紅色狼群」18年2月22日号
川上桃子
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