ニュース その他分野 作成日:2019年7月9日_記事番号:T00084507
台湾経済 潮流を読む米国と中国が互いに追加関税をかけ合う、いわゆる「米中貿易戦争」が本格化してから今月でちょうど1年になる。輸出依存度の高い台湾経済は、米中間の対立の高まりが引き起こす世界経済の冷え込みで、大きな打撃を受ける恐れがある。一方、米国と中国が互いから輸入していた財を、第三国・地域からの輸入に切り替えるようになれば台湾には新たなビジネスチャンスが生じる。果たして米中貿易戦争は、台湾の貿易にどのような影響を与えつつあるのだろうか?
伸びる対米、冷え込む対中
まず、オンライン貿易データシステム「グローバル・トレード・アトラス」を用いて、米国の最新(1~5月期)の輸入動向を見てみよう。中国(輸入額1位)からの輸入が11%減少した一方、メキシコ(2位)、ベトナム(10位)、台湾(13位)からの輸入は、それぞれ7%、32%、23%増加した。台湾が、中国に代わる輸入先の一つとして「漁夫の利」を得つつある様子がうかがえる。
一方、台湾の貿易動向(1~4月期)を見ると、輸出総額は前年同期比で4%の減少となった。国・地域別では、対米輸出(輸出額全体の14%)は22%増加した。品目別では、情報処理機器の伸び率が169%と著しく、電話機・携帯電話の伸び率も65%と高い。一方で、輸出額全体の26%を占める中国向け、12%を占める香港向けは、それぞれ12%、9%減少した。半導体、電子部品、化学・金属など中間財の輸出が減少したためだ。
このように、直近のデータを見る限り、台湾にとっては米国向け輸出の増加より、輸出全体の約4割を占める中国・香港向け輸出の減少の影響が大きいのが現状だ。
あり得る漁夫の利
とはいえ、貿易構造のシフトには一定の時間がかかることを考えると、直近のデータだけから米中貿易戦争の台湾への影響を判断することはできない。そこで、もう一つの手掛かりとして、研究者らによるシミュレーション分析の結果を見てみよう。
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の研究グループは、経済地理シミュレーションモデル「IDE-GSMモデル」を用いて、2019年から3年間、米中の関税が全品目で25%引き上げられる「米中貿易戦争ワーストケース」のシナリオを想定し、貿易戦争が起きなかった場合とで、各国・地域の域内総生産(GDP)を比較した。これによると、米国と中国のGDPがそれぞれ0.4%減、0.5%減となる一方、台湾のGDPは0.4%増と、マレーシアの0.5%増に次ぐプラスの影響があるという結果が出た。同研究グループは、「ワーストケース」シナリオでの産業別影響の推計も行ったが、東アジアの電子・電機産業のGDPは、2.8%の増加が予測された。台湾が、エレクトロニクス産業を中心に「漁夫の利」を得る可能性を示唆する試算結果となっている。
また、台湾の中華経済研究院(中経院、CIER)が経済部の委託を受けて行ったシミュレーション分析でも、米中貿易戦争が台湾のGDPに与える影響は、ごくわずかではあるがプラスとなるとの結果が出た。試算では、米国が中国に対して2,500億米ドル規模、中国が米国に対して1,100億米ドル規模の追加関税を賦課するケースを想定。このシナリオの下で、輸出は0.1%増、GDPは0.04%増となるとの結果が出た。
むろん、これらのシミュレーション結果は一定の前提の下での試算であり、一つの参考データにすぎない。それでも、米中貿易戦争から各国・地域が受ける影響にはばらつきがあること、その中で台湾は「漁夫の利」を得る可能性があることが分かる。
深刻な打撃受ける恐れも
ちなみに、アジア経済研究所の研究グループは、「19年から3年間、米国と世界の全ての国・地域が相互に10%の関税をかける『米国対世界』の貿易戦争」のシナリオのシミュレーションも行ったが、台湾は最も深刻なダメージ(GDP7.3%減)を受けるとの結果が出た。
仮に米国が、中国のみならず、全世界に対して関税率の引き上げに踏み切ると、その影響を最も強く受けるのは、もともと関税率が低く、財の価格に対する輸送コストなども小さいエレクトロニクス産業で、台湾はこの産業に依存していたのだ。
トランプ米政権が保護主義的な政策を取り続け、そのターゲットがいつ、どこに向けられるか分からない状況が続く限り、台湾は「漁夫の利」を得るどころか、深刻な打撃を受けるリスクにも晒(さら)され続けることになるのだ。
【参考文献】
熊谷聡・後閑利隆・坪田建明・磯野生茂・早川和伸「米中貿易戦争のアジア経済への影響――IDE-GSMによる分析」アジ研ポリシー・ブリーフ No.126(2019年5月10日)
経済部の資料「中美貿易戦之影響」2019年3月21日(経済部ウェブサイトよりダウンロード)
川上桃子
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