ニュース その他分野 作成日:2019年10月8日_記事番号:T00086230
台湾経済 潮流を読む投資ラッシュが成長率押し上げ
台湾企業の中国からの回帰投資が急拡大している。台湾政府による帰台投資支援プログラム「歓迎台商回台投資行動方案」の認可件数は、9月下旬までに140社を超え、投資予定金額も6,000億台湾元(約2兆円)を超えた。
この支援プログラムは、台湾企業の中国からの回帰投資に対して、▽米中貿易摩擦の影響を受けている▽中国に進出してから2年以上が経過している▽台湾経済の高度化に資する投資案件である──、などの条件を課した上で、用地や人材の確保、融資・税制面での支援や優遇を行うものだ。今年1月にスタートしたばかりだが、当初予想を上回るペースで申請が増えたため、6月には銀行融資の優遇条件を一部切り下げることになった。
回帰投資ラッシュは、マクロ経済にも影響を及ぼしつつある。行政院主計総処は8月、2019年の台湾域内総生産(GDP)成長率予測を2.46%と、従来より0.27ポイント上方修正した。注目されるのは、19年の民間投資の成長率が5.01%と、18年実績値の1.79%から加速することだ。今年は政府投資の2桁成長が見込まれることもあって、通年の固定資本形成の成長率は5.96%(18年実績値は2.5%)となる見通しだ。長らく投資不振に悩んできた台湾経済にとって、回帰投資の急増は思いがけない恵みの雨をもたらしている。
けん引役のサーバー生産
『天下雑誌』(19年7月3日号)が経済部の資料を基に集計した台湾回帰投資案件の内訳を見ると、業種別では、エレクトロニクス製品、中でもクラウド、ネットワーク機器関連の投資予定額が突出して多い。輸送機器、光学機器、機械類など、幅広い分野で回帰投資の動きが起きているが、100億元以上の案件はいずれエレクトロニクス関連だ。
特に注目されるのが、ハイエンドサーバー、とりわけそのマザーボードの生産の急速な台湾回帰だ。中国製ネットワーク関連製品の対米輸出関税率は今年5月、25%に引き上げられている。
台湾のノートパソコン受託生産企業は、00年代初頭から、サーバービジネスに展開して高い市場シェアを獲得してきた。▽広達電脳(クアンタ・コンピューター)▽仁宝電脳工業(コンパル・エレクトロニクス)▽英業達(インベンテック)▽緯創資通(ウィストロン)──の対世界出荷台数シェアは4社合計で約8割に達する。大口顧客は▽マイクロソフト▽アマゾン▽グーグル──などの米国企業だ。中国製品の関税引き上げに加えて、これら米国企業には、セキュリティー上の理由から中国製機器を忌避する動きが生じており、台湾への生産回帰を後押ししている。新聞報道によると、台湾のサーバーメーカー各社は、メキシコやベトナムといった第三国への生産シフトにも着手しているが、主流はやはり、サプライチェーンが整っており、量産経験の豊富な台湾への生産回帰だ。
問われる台湾の実力
このように、米中経済摩擦を機に始まった回帰投資ラッシュは、長らく投資不足や賃金の低迷に悩んできた台湾経済にプラスの効果をもたらしつつある。しかし、この「恵みの雨」も、客観的に見れば、企業の最適バリューチェーンの国際配置が外的なショックでゆがめられた結果の現象だ。台湾での用地・人手不足を考えれば、回帰投資に伴うコスト増は長期的には需要へのブレーキとなって跳ね返ってくる可能性がある。
台湾企業の立場から注目されるのは、台湾への生産回帰に伴うコスト増を顧客がどの程度まで受け入れてくれるのかという点だ。『天下雑誌』(19年1月2日号)では、この「メード・イン・タイワンへの支払いプレミアム」に相当する値として、アマゾンが台湾の業界関係者に語ったという「(中国から対米輸出に25%関税が適用されることを前提として)9%から13%程度の補塡(ほてん)は可」という言葉を紹介している。
生産コストの増加分が、台湾メーカー、顧客企業、最終消費者の間でどのように分担されるかは、台湾企業のブランド力や技術力、開発・生産拠点としての台湾の優位性に大きく関係するはずだ。仮に「台湾プレミアム」がなく、台湾への生産回帰がメーカーの収益を圧迫するだけになれば、一時的に台湾への生産回帰が起きたとしても、中長期的にはベトナムやインドネシアといった中国に代わる拠点への生産シフトが起きることになるだろう。台湾生産回帰はいっときの慈雨にすぎないのか、より長期的な構造転換の始まりとなるのか。その答えは、ものづくりの場としての台湾の実力に大きく関わっている。
ジェトロ・アジア経済研究所 川上桃子
川上桃子
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