ニュース その他分野 作成日:2020年1月14日_記事番号:T00087868
台湾経済 潮流を読む1月11日に行われた総統選挙では、事前に予想されていた通り、民進党の蔡英文・頼清徳ペアが史上最多の817万票を獲得し、勝利を収めた。また立法委員選挙でも、民進党が過半数議席を獲得した。
一時は再選が危ぶまれていた蔡氏が総統選を制した背景としては、昨年1月の習近平・中国国家主席の「一国二制度による台湾統一」に関する演説、香港情勢の緊迫化といった「中国ファクター」によって火がついた人々の危機感の高まりという要因が大きい。しかし、直近の経済情勢が堅調に推移してきたこと、経済面での中国依存からの脱却が台湾の経済成長にメリットをもたらすかたちで進んできたことも、民進党陣営に有利に働いたものと思われる。
今回のコラムでは、昨年末に台湾の研究機関が出した経済予測を基に、2019年の台湾経済を回顧し、20年のマクロ経済動向を展望する。
19年、内需・外需とも堅調
専門機関による最新のプレスリリースを見ると、19年の実質経済成長率の予測値は、行政院主計総処が2.64%、中華経済研究院(中経院、CIER)が2.54%、中央研究院(中研院)経済研究所が2.62%と、おおむね当初の予測を上回る結果となった。
特に注目されるのが、投資の伸び率の高さだ。民間投資は、半導体セクターでの堅調な設備投資に加え、米中貿易摩擦によって生じた中国からの「回帰投資ラッシュ」の趨勢(すうせい)を受けて、対前年比7.6%の成長となったものと予測されている(主計総処)。長らく投資不足に悩んできた台湾経済にとって、回帰投資の拡大が恵みの雨となったことが分かる。
輸出の成長率も、台湾元建てで対前年比0.7%増(ドル建てではマイナス1.6%)と、わずかではあるがプラス成長になったようだ。米中貿易摩擦の影響で伸びた米国向けの通信機器輸出の伸びが、中国向け輸出の減少によって相殺された格好だが、19年は輸入額も減少したため、ネットの外需は堅調な伸びとなった。
このように、19年の台湾経済は、中経院の表現を借りるなら「内外皆温(内需も外需も共に堅調)」なものとなった。国民党が政権を失うこととなった前回の総統選挙は、その前年(15年)の経済成長率が1.5%という苦しい経済環境の中で戦われた。これに比べれば、19年のマクロ経済の成績表は、与党にとって悪くないものだったと言えるだろう。
20年、内需牽引型に?
一方、20年の経済成長は、より内需依存的なパターンになるものとみられている。中経院は、通年の経済成長率を2.44%と予測しており、そのうち2.17%が内需、0.27%が外需による貢献分と予測している。
主要経済予測機関は20年の世界貿易の成長が19年から加速するとみている。主計総処の予測でも、20年の輸出成長率(台湾元建て)は2.7%と、19年から加速する見込みだ。ただし、輸入額も拡大が見込まれるため、ネットでの外需の貢献度は限定的なものとなる見通しだ。他方、内需の内訳を見ると、投資、民間消費はそれぞれ4.6%、1.9%の成長率が見込まれている。投資の堅調な伸びが予測されるのは、19年と同様に半導体の設備投資や回帰投資が見込まれることに加え、第5世代移動通信(5G)ネットワーク投資も本格化することが見込まれるからだ。このように20年はより内需が牽引(けんいん)役となる見通しだ。
第2期蔡政権の課題
図から分かるように、台湾経済の成長率は、15年を底として、過去4年間、比較的堅調に推移してきた。逆に言えば、台湾経済は既に、2%後半の経済成長率があれば「悪くない」と評価される成熟局面に入っているとも言える。
しかし、台湾経済が、一方で、エレクトロニクス産業への偏重や対中経済依存といった従来の構造からの脱却、他方で若者の低賃金問題、急速な少子高齢化、人材獲得を巡る国際競争の激化といった課題を抱えていることを考えれば、新たな成長のエンジンは必要である。
蔡陣営のウェブサイトや政見放送を通じた発信を見る限り、産業政策については、目立った新機軸は打ち出しておらず、第2期蔡政権は、基本的には「五大イノベーション計画」の枠組みを踏襲し、任期8年間を通じて新産業の育成と経済構造の多角化、高度化に一定の成果を挙げることを目指すことになりそうである。
今回の総統選挙では、香港情勢を含む中国ファクターが焦点となった分、経済問題はさしたる議論の対象とはならなかった。しかし、第2期政権が実際にスタートすれば、人々の目は、経済政策を含む内政面での課題への取り組みとその成果にも向かうだろう。第2期蔡政権は、果たして、次の4年の間に台湾経済にどのような新たな成長の道筋をつけることができるであろうか。
川上桃子
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