ニュース その他分野 作成日:2020年4月14日_記事番号:T00089406
台湾経済 潮流を読む今回から本コラムを担当することになりました中央大学の赤羽と申します。「台湾経済をグローバルな観点から大胆に見通す」をモットーに、執筆して参りますのでどうぞよろしくお願いいたします。さて、私が担当する第1回は、新型コロナウイルスがもたらす世界経済危機と台湾の関係について取り上げます。
過去の経済危機からの教訓
昨年末、中国、湖北省武漢から生じた新型コロナウイルス災禍は今やパンデミック(世界的大流行)となっている。世界の死者数は本稿執筆時点で11万人を超える一方、特に人の移動を制限せざるを得ないことで、経済活動に大きな支障が生じている。こうした状況下、私たちは得てして出口の見通せない不安感に陥りがちだが、こんな時こそ冷静に過去からの教訓をくみ取りたいものだ。
今回のコロナウイルス災禍は、リーマンショック以上の経済危機を世界にもたらすとみられる。問題は危機の根源が感染症という「非経済的要因」であり、ワクチンや治療薬を待たねばならぬ点だ。ただ、足元ではその開発が急ピッチで進められており、1年後くらいには何とか実用化のめどが立ちそうといわれている。また、各国政府から緊急経済対策も次々に発動される見通しである。一方で、私たちの働き方もこれを機にテレワーク化、オンライン化が急速に進んでいる。つまり、少しずつではあるものの、経済や社会は災禍の出口に向かう準備を整えつつあるというのもこれまた事実であろう。
過去のアジア通貨危機やリーマンショックからくみ取るべき教訓は、経済危機後にはV字回復があるという点だ。アジア通貨危機後の韓国の実質国内総生産(GDP)成長率(1998年:-5.5%→99年:11.3%)、リーマンショック後の台湾(2009年:-1.6%→10年:10.6%)などが顕著な事例である。20年は世界経済成長率がマイナスに陥るといわれており、本格的な回復は21年から22年にかけてとみるのが妥当であろう。
危機後のけん引役は中国?
では、経済危機からの回復をけん引するのは、どこなのだろうか。結論からいえば、筆者は中国の可能性が高いとみている。その理由は三つある。
第一に、直近の趨勢(すうせい)として中国はいち早くコロナウイルス災禍を収束させつつある。中国の感染者数の伸びは収まりつつあり、武漢をはじめ各都市の封鎖措置は解除され、生産活動も再開しつつある。
第二に、今後の成長が見込まれそうな技術やサービスで、中国がそこそこの競争力を持っていることである。例えば第5世代移動通信(5G)、自動運転、モノのインターネット(IoT)、航空宇宙といった技術分野では、中国は官民で研究開発(R&D)を蓄積させている。米トランプ政権が18年から米中貿易摩擦戦争を仕掛けたのも、これらの分野で中国が急速に競争力を伸ばしてきたからに他ならない。また中国は、eスポーツといわれるオンラインゲームや北京字節跳動科技(バイトダンス)のTikTok(ティックトック)などに象徴されるように、ソフトウエアのコンテンツやフレーム開発でも進んでいるし、シェアリングエコノミーでもモデルとなる仕組みを築いている。これらのことからサービタイゼーション(製造業のサービス化)でも、今後リードする可能性が高い。
そして第三に、今回のような危機の克服、回復の過程では、中国のような強権的体制の方が民主主義国家よりもスピード感をもって対応できる点である。
短期的に「用中」戦略が重要
台湾にとって、中国との距離感のあり方は常に頭を悩ます問題である。16年に民進党の蔡英文政権が発足してからは、東南アジアや南アジアへの進出を目指す新南向政策の方針がとられ、18年に米中貿易摩擦が発生してからは、「脱中国依存」が加速しつつある。特に昨年、香港で逃亡犯条例改正が沸き上がり、それに対する反対デモが生じてからは、台湾の市民の中国に対する心情的距離感はこれまでになく広がっている。そのことは、今年1月、蔡英文氏が最多得票数で再選されたことにも表れていよう。
しかし、今後3年間程度の危機回復の過程では、中国経済の可能性にあえて目を向ける必要があると筆者は考える。先に示した技術分野は、中国政府にとって戦略的領域であり、外資の進出が制限されているところも多い。ただいずれも裾野の広い分野であり、部品や材料レベルで台湾がサプライチェーンに関わることは可能である。また、半導体をはじめとする電子デバイスでは、依然として台湾が中国に対して優位にあり、中国への輸出機会はさらに拡大すると見込まれる。
もちろん筆者は、馬英九政権時代の「親中」指向に回帰せよといっているのではない。台湾社会の「脱中国依存」は、中長期的、構造的な流れとしてもはや止めることはできないだろう。ここで強調したいのは、それとは別次元の問題として、今後短期的に中国に生じる成長機会をうまくすくいあげろということである。それは「親中」でも「反中」でもない、「用中(中国を利用する)」の戦略である。
赤羽淳
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