ニュース その他分野 作成日:2019年12月10日_記事番号:T00087320
台湾経済 潮流を読む低下する中国での就業比率
中国政府は11月4日、台湾の企業、個人に対する26項目の優遇措置を発表した。これは、昨年2月に発表された「31項目の対台湾優遇措置」に続く台湾の取り込み策の一環だ。26項目のうち、13項目が企業向け、13項目が個人向けの措置で、前者については台湾企業の第5世代移動通信(5G)の研究開発(R&D)や通信網建設への参入開放、航空業や空港建設への参入開放などが、後者については台湾人学生の中国での就学、運動選手の中国での活動に関する措置などが盛り込まれている。いずれも、来年1月の台湾の総統選挙・立法委員選挙を見据えたものだ。
「31項目」および「26項目」の優遇措置の狙いは、中国での事業機会や就労機会の魅力でもって、台湾の個人や企業を中国へと引き寄せることにある。しかし、仕事や進学のために中国に渡る台湾人の数は、ここ数年、減少傾向にある。
行政院主計総処のデータによると、中国(香港・マカオを含む)での台湾人就労者数は、2012~13年の43万人をピークに減少傾向にある。最新データの得られる17年には40万5,000人と、統計のある09年以来で最も少なくなった。他方、米国での就労者数は過去5年の間に約10万人増えており、海外での就労者の総数もほぼ一貫して増加傾向にある。この結果、海外で働く台湾人のうち中国での就労者数の割合は、09年の62%から17年には55%へと低下した。
インターン・就学者数も減少
中国離れの傾向は、近年の「台青西進(台湾の若者が中国へ向かう)」現象の最前線である中国での短期実習(インターン)でも顕著だ。
『商業周刊』(1647期)によると、毎年夏に台湾・香港・マカオの大学生・大学院生を対象に行われているインターンプログラム「玉山計画」の場合、台湾大学からの応募者数は14~18年にかけて急増し、昨年は100人近くに上ったものの、今年は前年からほぼ半減した。同じく、中国インターネット発展基金会のインターンプログラムも、阿里巴巴(アリババ)や騰訊(テンセント)といった著名企業での実習機会が提供されていることから、昨年は50人の募集に2,000人近い応募があったが、今年は1,300人程度にとどまった。米中貿易摩擦により中国離れの傾向が生じている他、東アジアの政治情勢の影響も大きいとみられる。香港情勢が緊迫し、台湾で総統選挙が近づく中、中国による台湾の若者取り込み策の一環と目されてきた中国企業でのインターンに応募することをためらう若者が増えているようだ。
多くの学生にとって、中国での短期間の企業実習は、参加したからといって中国に政治的に取り込まれるというものでもなく、社会体験の一つにすぎないだろう。しかし、中国が台湾の統一戦略の一環として若者をターゲットとしていること、積極的なインターン誘致策がその文脈の中に埋め込まれていることを考えれば、昨今の政治情勢の中で、中国でのインターンへの関心が衰えるのは自然な流れだ。
中国での就学者、低年齢化
中国離れの傾向は、中国の大学で学ぶ台湾人学生数の動向にも表れている。『新新聞』(No.1700)が教育部のデータを基に報じたところによると、中国の高等教育機関(専科、大学、大学院)で学ぶ台湾人学生の数は、16年の1万2,677人をピークに、18年には1万1,185人にまで減った。このうち、博士課程で学ぶ台湾人は、14年の2,613人から18年には2,134人にまで減少した。一方、学部で学ぶ台湾人は近年、着実に増えており、14年は5,350人だったが18年には7,847人となった。『新新聞』によれば、中国の大学の医学部への進学が人気を集めている他、数年前から台湾の予備校が中国への進学指導に力を入れるようになったことも背景となっている。
大学時代の友人や体験は、その後のキャリア選択や交友関係に大きな影響を持つ。親や教師の影響を受けつつも、自ら中国の大学への進学を選んだ彼ら、彼女らの「中国経験」は、恐らく大学院生として、あるいは社会人として中国に渡る台湾人の密度とは異なるものになるだろう。この点で、中国に進学する若者の若年化傾向は、注目すべきだ。
とはいえ、昨年から今年にかけて、中国を取り巻く国際環境も、台湾の政治情勢も大きく変わった。中国での就学者の低年齢化の傾向にも変化が生まれる可能性が高い。果たして、中国の大学への進学は、昨年来の環境変化の影響をどの程度受けるのだろうか。19年の実績データが注目される。
参考文献)
李佳頴「今年赴中留学潮為何退焼」『新新聞』No.1700
川上桃子
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