ニュース その他分野 作成日:2019年9月10日_記事番号:T00085695
台湾経済 潮流を読む台湾の視点からスマートフォン(スマホ)産業を観察していると、台湾企業の最重要顧客であるアップル(2018年の世界シェア2位)や、米中経済摩擦の渦中にある華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ、同3位)の動向に目がいくことが多い。しかし、スマホ産業の覇者は、なんといっても出荷台数世界トップのサムスン電子だ。利益率でアップルの後塵(こうじん)を拝しているとはいえ、熾烈(しれつ)な市場競争を制して、長く世界首位の座を守り続けていることは注目に値する。
半導体メモリーや液晶パネルでのサムスンの強さは、アグレッシブな投資戦略や傑出した財務力、スケールメリットといった側面から説明されてきた。しかし、コンシューマー型製品であるスマホ事業での競争力は、そのような要因では説明し切れない。今回のコラムでは、台湾企業の最大のライバルであり、重要な取引先でもあるサムスンのスマホ事業の強さについて考えてみたい。
歴史的な経緯
スマホ市場でのサムスンの優位性の背景としては、地域ごとのニーズをくみ取り、デザインや機能に的確に反映させる市場対応力、早い時期から取り組んできた新興国市場開拓の成果といった要因が指摘されることが多い。このような市場への高い応答力は、サムスンがスマホ登場以前の1990年代から海外市場に進出する中で磨いてきたものだ。
韓国政府は90年代初め、第2世代移動通信(2G)技術の選択に当たって、当時の主流技術であったGSMではなく、CDMA技術を選択した。政府主導で官民共同の技術開発プロジェクトが組織され、サムスンをはじめとする韓国企業は、クアルコム社と提携して、CDMA技術の実用化に取り組み、海外のCDMA市場にいち早く進出して、米国をはじめとする各国の有力通信事業者とのパイプを築いた。同時に、GSM市場でも多様な機種を投入した。また、この官民共同プロジェクトを通じて、当時はまだ小さなベンチャー企業にすぎなかったクアルコムといち早く密接な協業関係を築いたことも、3G時代の到来とともに大きな意味を持つこととなった。
垂直統合とベトナム拠点
このような発展初期の経緯に加え、垂直統合的な組織体制も、同社のスマホ事業の強みだ。同社は、液晶ディスプレイで世界1位(シェア83%)、DRAMで1位(43%)、リチウムイオン電池で2位(15%)の地位にある(日経新聞2019年6月27日)。基地局などの設備ビジネスも手掛けている。
もっとも部品の内製は、時として部門間のなれ合いを生み、高コスト体質につながりかねない。組織内のもたれ合いを規律付ける仕組みがあるからこそ、部品事業での強みが、スマホや液晶テレビといったコンシューマー型製品分野での競争力に結び付いているのだ。
早い時期からベトナムでの生産体制を整えてきたことも、同社の特徴だ。富士キメラ総研の「ワールドワイドエレクトロニクス市場総調査」によると、サムスンの18年生産台数のうち、ベトナムでの生産割合は約5割と、中国(2割強)を大きく上回っている。米中経済摩擦が高まり、主要各社が中国からの生産移転先を模索している中、既に東南アジアで安定的なサプライチェーンを築いていることは、同社の強みだ。
見る影も無い日本企業
このように、サムスンのスマホ事業での成功の背後には、市場に合わせた現地化能力や垂直統合型の組織、東南アジア拠点の活用といった同社の特徴がある。これらの特徴は、日本の電機メーカーにも共通するものだ。実際、スマホ以前の携帯電話の時代には、パナソニックやシャープといった日本勢も、総合電機メーカーとしての技術力を生かして、技術面でのリーダーとしての存在感を持っていた。
だが、そのような強みは、日本市場の枠を超えることもなければ、スマホの時代まで持続することもなかった。その要因は、日本の携帯端末産業が、NTTドコモをはじめとする通信事業者の強い主導下で発展してきたことに求められるだろう。日本では、通信事業者ごとに、端末メーカー、各種コンテンツやサービス等が垂直的に囲い込まれる独特の市場構造が発展したため、日本の電機メーカーは、キャリアの要望に応じて端末を開発・製造するサプライヤー的な受け身のポジションに身を置くこととなった(丸川・安本2010年)。その結果、高い技術力にもかかわらず、日本企業は市場への応答力やコスト競争力が問われる海外市場では苦戦することとなり、スマホ時代の到来とともに日本市場でも存在感を失っていくこととなった。
これとは反対に、サムスンは、世界各地の市場とじかに向き合い、競争にもまれる中で、その競争力を磨いてきた。スマホ市場の変調や日韓間、米中間で深まる経済対立等、不確実性は少なくないが、その底力は極めて高い。
(参考文献)
丸川知雄・安本雅典編著『携帯電話産業の進化プロセス』有斐閣、2010年。
川上桃子
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