ニュース その他分野 作成日:2019年1月8日_記事番号:T00081376
台湾経済 潮流を読む2019年の世界経済は、米アップルが中国での販売不振を受けて業績を下方修正した「アップルショック」のあおりを受け、世界的な株価の下落とともに幕を開けた。アップルのサプライチェーンとともに成長を遂げてきたハイテクメーカーを主力とし、中国経済に深く依存する台湾にとっても気掛かりな状況の中での新年の船出である。
とはいえ、昨年末に出そろった主要機関の台湾経済の成長予測をみると、19年の展望は決して暗くはない。昨年8月の予測値から下方修正されたものの、18、19年の実質GDP(域内総生産)成長率(予測値)はそれぞれ2.7%、2.4%と、10年代のトレンドの中にあっては堅調な水準が予想されている。中華経済研究院(中経院、CIER)や中央研究院(中研院)の予測もほぼ同様の見通しだ。
堅調な内需が下支え:18年
まず、行政院主計総処の予測結果を基に、18年のマクロパフォーマンスを振り返ろう。18年の台湾経済を支えたのは、堅調な内需だった。18年第1~3四半期通算のGDP成長率(予測値)は2.9%、うち内需と外需の寄与度の内訳はそれぞれ2.7%と0.2%であった。
内需については、民間消費、固定資本形成(投資)ともに堅調に推移したが、注目されるのが、17年にはマイナス成長(△0.1%)であった投資が、18年には3.6%増(予測値)に回復したことだ。これには、政府による大型インフラ整備計画「前瞻基礎建設計画」等の下での積極的な財政出動の効果もあるが、民間投資の伸び率が17年のマイナス1.1%から3.2%増(予測値)に回復したことが寄与した。
他方、外需の経済成長への貢献率は低い水準にとどまった。輸出は、電子部品を中心に引き続き堅調で、18年1~11月の電子部品(輸出額全体の33%)、情報処理・オーディオ機器(同10%)の輸出額はそれぞれ対前年同期比4.8%増、2.7%増だった。通年での実質輸出額も3.4%増と堅調であったが、一方で実質輸入額が通年で4.7%増と見込まれるため、外需の貢献率は低水準にとどまった。ちなみに18年1~11月の輸入品目をみると、電子部品(輸入額全体の20%)が対前年同期比で15%増、鉱物品(同19%)が27%増であった。
内需主導型成長続く:19年
2019年の成長率については、世界の経済成長率を3.1%と見込む想定の下、主計総処が2.4%、中経院が2.2%と予測している。中研院もIMF(国際通貨基金)等の世界経済予測を踏まえて、19年の成長率を2.5%と予測している。いずれの機関も、昨年とほぼ同じ水準の成長率を予想している。
成長のパターンとしては、引き続き、内需が主導することになりそうだ。主計総処は、民間消費の成長率は18年とほぼ変わらず2%強、投資の成長率については18年の3.6%から19年には5.4%へと加速すると予測している。中研院や中経院も、予測値に差はあるものの、ほぼ同様の動きを予測している。
消費については、月額最低賃金が約5%引き上げられるなど、賃金上昇が期待されることが好材料だ。投資については、半導体産業の設備投資の回復やインフラ投資の拡大、対内直接投資の拡大に引っ張られるかたちで、拡大に向かうことが予想されている。
他方、輸出、輸入の成長率はいずれも3%程度と見込まれており、外需のGDP成長率への寄与は18年同様、限られたものになりそうだ。このように、近年の台湾経済は、内需の堅調な伸びに支えられるようになっている。
判断を迫られる1年に
とはいえ、上で見たシナリオは全て、世界経済が3%程度の成長を遂げるという前提の上に描かれたものである。この前提を揺るがす可能性のある最大のリスク要因は、いうまでもなく米中貿易・ハイテク戦争の行方だ。年明けの「アップルショック」は、両国間の対立がビジネスの実態に負の影響を与えつつあることを可視化した。
特に、米国と中国、その双方の市場に大きく依存し、半導体やスマートフォンといった米中摩擦の最前線にある製品を主力とする台湾にとって、両国の対立関係が引き起こす軋轢の影響は大きい。米国による起訴を受けてファウンドリー大手、聯華電子(UMC)が中国の半導体メーカーへの協力を縮小することになったように、台湾企業が米中間での「板挟み」に苦しむ局面が増えることが予想される。
台湾企業は、中・長期的には、事業モデルの再構築、海外拠点の再編によって米中摩擦のリスクや中国の事業環境の悪化への対応を図っていくことになり、19年は、この動きが本格化する年となるだろう。総統選挙を控えた政治の面でも、大国間のぶつかり合いの間での産業・企業レベルでのかじ取りという面でも、台湾にとっての19年は、判断を迫られることの多い1年になりそうだ。
【参考資料】
行政院主計総処、中央研究院経済研究所、中華経済研究院経済展望中心のプレスリリース資料。
川上桃子
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