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第18回 大人のためのアニメ作品、台湾映画『幸福路にて』


ニュース 商業・サービス 作成日:2018年1月16日_記事番号:T00075034

台湾産業ココがスゴイ

第18回 大人のためのアニメ作品、台湾映画『幸福路にて』

 2008年公開の『海角七号 君想う、国境の南』以降、台湾映画ブームが再来しています。そんな中、「100%メードイン台湾のアニメ映画がある」と友人に勧められ、先週『幸福路上(オンハピネスロード、On Happiness Road、1月5日公開)』を観てきました。「アニメは子供のもの」という先入観から、気楽に映画館に向かいましたが、観客は大人ばかり。特に30~40代に支持される理由を探ってみました。

/date/2018/01/16/20koram2_2.jpg台湾のどこにでもある風景が満載(伝影互動提供)

台湾の変動の時代を生きる

 『幸福路上』の主人公は、アニメに似つかわしくなく、アラフォー台湾人女性です。6歳の時に引っ越した幸福路168号(現・新北市新荘区幸福路がモデル)で子供時代を過ごし、卒業後はマスコミ勤務、その後いとこの紹介で米国で仕事に就き、アメリカ人男性と恋に落ち結婚…と一見、順風満帆の人生。ところが、祖母の葬儀のため台湾に一時戻った主人公は「幸せって何?」「自分は一体何者なの?」と悩みにとらわれ、表情がさえません。

/date/2018/01/16/20koram6_2.jpg親戚が集まれば「子供はまだか」と問われ困り顔(伝影互動提供)

 一方、そんな自分探しのヒントとなる子供時代の回想シーンでは、元気いっぱい、はち切れんばかりの笑顔が対照的です。迷子になり、野良犬に襲われたところを助けてくれた父親が王子様に変身したりと、子供らしい喜びや悩みといった心の動きが、アニメならではのポップな表現で伝わってきます。当時の台北駅などの建物、学校や住宅、室内などの様子からは、古き良き台湾のムードが味わえます。家族そろって大皿料理を囲んだり、屋外でバーベキューを食べたりと、台湾家庭の温かい雰囲気が私たち外国人にも感じられるので、台湾人なら懐かしさがこみ上げることでしょう。

/date/2018/01/16/20koram1_2.jpgアミ族の祖母(右)と(伝影互動提供)

 主人公のキャラクター設定やストーリーも「台湾人あるある」です。小学校ではボポモフォ(中国語の注音符号)を学び、中国語でなく台湾語を話して先生に叱られたり、両親から期待をかけられ補修班(予備校、学習塾)通いをしたり、大学時代にデモ活動に参加したり。これまで台湾人の友人や同僚から話を聞いた学生時代そのまま。つい重ね合わせて観てしまうのではないでしょうか。

 さらに主人公の人格形成に影響をもたらした時代背景として、戒厳令解除、99年の中部大地震(921大地震)、陳水扁総統(民進党)や馬英九総統(国民党)への政権交代など、台湾のこの40年の変動の歴史がさり気なく描かれています。

 ストーリーの詳細は伏せますが、現在の自分自身を見つめ直し、幸せや生き方を選び直す主人公の姿に、心が揺さぶられます。南部出身で新竹科学工業園区(竹科)で働く台湾人男性(39)は、「あの時代を経験した台湾人なら誰でも感動する。外国人に観てもらえれば、台湾の政治、教育、言語、エスニックグループ(族群)、そして現代史についてより理解してもらえると思う」と目を真っ赤にして話していました。

台湾のちびまる子ちゃん

 『幸福路上』を制作した女性監督、宋欣頴氏は主人公と同年代。台湾大学政治学部卒業、京都大学で映画理論を学び、米国のコロンビアカレッジシカゴで映画の修士課程を修めました。米国での初めての授業で先生から、作り話でなく、自分は何者かを問い掛けよと言われ、つまらないと思っていた工業地帯近くの幸福路で過ごした幼少時代が人生に与えた影響の大きさに気づきました。

 『幸福路上』は当初、実写映画を予定していましたが、台湾に戻ってから、アニメの方が効果的にできると助言を受け、路線変更。ちびまる子ちゃんのように、一般的な台湾人家庭を描きたいと考え、父親や母親のキャラクターの外見を決めるため、数多くの家族写真を集めて意見を求めたところ「自分の母親の写真が選ばれた」とか。

/date/2018/01/16/20koram4_2.jpgお母さん(右)は監督の母親がモデル(伝影互動提供)

 背景について宋監督は、台湾のアニメ人材は日本や欧米で学ぶ人が多いので、台湾の建物を描いていても、初めはまるで日本やフランスのようになってしまったと苦労談を明かしました。

 声優はアニメらしくなく、自然に聞こえることにこだわりました。主人公の声を担当したのは、女優の桂綸鎂(グイ・ルンメイ)。いとこ役は、『海角七号』『セデック・バレ』の魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督。「人にやらせるのは簡単だけれど、自分が自身とタイプの異なる、知的な役を演じるのが難しかった」と語っていました。

 映画と同名の主題歌は、蔡依林(ジョリン・ツァイ)が歌っています。

登場シーンの聖地巡礼も

 『幸福路上』のフェイスブックページでは「感動した。もう一度観る」などの声があふれ、映画に登場したシーンの現在の様子も紹介されていますので、観光がてら訪れてみるのも楽しそう。

 セリフは中国語や台湾語ですが、字幕(英語・中国語)もあります。台湾をよりよく知り、自分を振り返り、海外で暮らす意味を考えるために観る価値ありです。日本でも公開してほしいですね。

ワイズメディア 青木樹理

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