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第332回 楽譜のコピーで実刑判決/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年2月23日_記事番号:T00101182

産業時事の法律講座

第332回 楽譜のコピーで実刑判決/台湾

 台湾での著作権法違反は、初犯であれば、通常は懲役6月以下で、罰金に換算して済ませることができますが、侵害の経済価値が高額、または被告の態度が悪い場合、懲役7月以上となり、相当の経済的対価を払わなければ刑務所行きとなります。

 陳宛緗は、高雄市で結婚式の演出を行う企業「愛派対企業社」を経営していました。仕事上必要な大量の楽譜を、「卓著文化事業有限公司(以下、卓著社)」から購入しており、卓著社が4セット、計約1万曲分の楽譜を発行していることを知っていました。

 裁判所によれば、これら楽譜は、卓著が音楽著作権者の許諾を得た後、専門家に依頼して編曲・改作を行った二次著作であり、卓著社が著作権を取得していました。

大量の楽譜コピーを無断売却

 陳は、結婚式での演奏を依頼するとして、キーボード奏者(以下、演奏家)を5人募集しました。また陳は演奏家には大量の楽譜が必要だと称し、2016年11月、卓著社の楽譜をスキャンしたファイルを保存したタブレット端末を8,000台湾元(約3万3,000円、タブレット6,000元、楽譜2,000元)の対価で、5人にそれぞれ売却しました。

 しかし、そのうちの1人が、陳からは一度しか演奏の仕事が紹介されていないため割に合わないとして、陳に返品、返金を求めました。陳は同意をするふりをし、一方では卓著社に同演奏家が卓著社の楽譜を無断で複製したと告発しました。

 卓著社は調査の結果、前述の事実を発見。警察に通報し、17年11月に陳の高雄市の自宅に家宅捜索が入りました。その結果、大量の楽譜のコピーと楽譜のコピーが保存されたコンピューターが発見されました。

 陳は、▽コンピューターには購入時から楽譜が入っていた、▽自身は一度も使ったことがなかった、▽タブレットの楽譜は全て演奏家本人がコピーした──などと主張しましたが、裁判所は、それらは全て陳がコピーしたことを確認しました。

 また陳は、オリジナルの楽譜集を卓著社から購入してコピーしており、公正利用(フェアユース)であるとも主張しました。しかし陳は、オリジナルの楽譜集を裁判所に提出しませんでした。

 20年10月、第一審の橋頭地方法院(地方裁判所)は、被告を懲役10月の有罪とし、民事では45万元の損害賠償を認めました。

責任逃れで悪質

 21年6月、控訴審の智慧財産商業法院(知的財産および商業裁判所)は原判決を支持。22年1月20日、最高法院(最高裁判所)が陳の上告を棄却したことで全案が確定し、陳は服役することとなりました。

 最高法院は判決の中で二審判決を引用し、「被告(陳)は、本件犯罪を否定しているだけでなく、演奏家の王伃が返金を求めた際、王伃が告訴人(卓著社)の楽譜を無断で複製したと告発した。犯行後も責任逃れをし、混乱をもくろむなど、過ちを悔い改める意志がない。一時の過ちで法を犯したとは認め難く、再犯の恐れが無いとは言えない」として、下級審の量刑を支持しました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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