ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第334回 ガチョウの営業秘密/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年3月23日_記事番号:T00101660

産業時事の法律講座

第334回 ガチョウの営業秘密/台湾

 「営業秘密」は、ハイテク産業だけでなく、農家における飼養技術にも存在します。

 烏鬃鵝(ガチョウの一種、以下ガチョウ)業者の黄水利は、次のような主張で台中地方法院(地方裁判所)に訴えを起こしました。

 ▽被告の泰和科技有限公司と2015年12月にガチョウ養殖場の契約を結び、ガチョウのひな1羽当たり150台湾元(約630円)で被告に販売するとした。▽被告は18年3月に原告に対し、同年2月に納品されたガチョウに卵黄滞留、臍帯(さいたい)感染、食欲不振などの症状がみられ、大量死亡したとして契約解除を通知した、▽その後、被告は同年4~5月に、購入したガチョウ1,350羽を、繁殖のために翁建華に引き渡した、▽これは、購入したガチョウを双方の同意なしには繁殖用として使用できないという契約に違反する、▽残り1年の契約期間に販売予定だったガチョウ数が減少したことに対する202万5,000元の損害賠償を請求する──。

 台中地方法院および台湾高等法院(高等裁判所)台中分院は次のような理由から原告の訴えを退けました。

 ▽当事者間の契約は3月に終了しており、4~5月の被告の行為は契約に違反していない、▽原告はガチョウ1,350羽の差し押さえを申請したが、ガチョウは保管が困難なため競売に掛けられ、原告が買い戻した、▽ひなが原告の手元に戻ったのであれば、営業秘密侵害による原告の損害は既に賠償されている。

営業秘密侵害か契約不履行か

 原告の上告を受けた最高法院(最高裁判所)は22年1月に次のような理由から原判決を破棄しました。

1.双方が締結したのは「供給継続契約」であり、原告が欠陥のあるガチョウを供給した場合、被告はまず「補正」を要求し、原告がそれを拒んだり、補正できないときには、契約を終了することができる。しかし本件被告は契約を直接終了しており、適法ではない。そのため、ガチョウ転売時、双方の契約は有効だった。

2.原告は、被告が営業秘密を侵害したと主張し、残り1年の契約期間、ガチョウを販売できない損害賠償を請求した。原判決はガチョウに関する営業秘密があったとは証明できないとし請求を棄却したが、原告の真意は、被告が理由なく契約を終了した(契約不履行)ことに対する損害賠償請求である。裁判所はどのような営業秘密があるのかの証明を求めるのではなくこの点を明確にすべきだった。

3.原告は「ガチョウを販売できない損害賠償」を求めて訴えている。原告は競売によりガチョウを得たが、競売の理由はガチョウの保管が容易でないため、競売後に現金を供託し判決確定後に原告に交付することにあった。これらは全く関係のないものであり、裁判はそれを混同すべきではない。

 ガチョウの養殖に係る秘密技術が、ガチョウが販売されることで他人に知られたり、複製できたりするのであれば、たとえそれが法律で明確に保護されていても、技術保有者の利益は保護されないことになります。実はこれが、営業秘密の法制度における最大の問題点なのです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座