ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第339回 外国企業による刑事告訴が可能に/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年6月8日_記事番号:T00102972

産業時事の法律講座

第339回 外国企業による刑事告訴が可能に/台湾

 2019年1月23日付の本コラムでもお伝えしたように、立法院が会社法を改正したことで、外国企業は今後「認可」を必要とせず、刑事告訴ができるようになりました。しかし、結論から言うと、しばらく観察が必要なようです。

 17年2月、デンマークのHaldor Topsoe(ハルダー・トプソー、以下HT社)は、次のように主張し、検察に刑事告訴をしました。

 富利康科技(クリーン・エアー・テクノロジー)の董事長は、HT社に在籍していたデンマーク人技術者Schoubyeが知っているセラミックフィルター触媒含浸液の原材料、組成、比率、製造工程、供給元に関する情報がHT社の営業秘密であると認識しながら、Schoubyeにその漏えいを持ち掛け、類似製品の製造に利用した。これは、営業秘密法における「他者の営業秘密を不正に取得し、使用する罪」に抵触するものである。

 検察は富利康の責任者を起訴しましたが、18年11月、高雄地方法院(地方裁判所)は「公訴の不受理」との判決を下しました。理由は、HT社は法人として認可されておらず、告訴する権利はないというものでした。

 また判決は、18年11月に会社法が改正され、全ての外国企業は法人格を有するようになったが、この法改正を遡及(そきゅう)して適用することはできないと判断しました。

 検察の控訴を受けた当時の智慧財産法院(現・智慧財産商業法院=知的財産商業裁判所)は19年に原判決を破棄し、一審に差し戻しましたが、被告はこれを上告し、20年2月、最高裁は上告を棄却する判決を下しました。

 最高裁の見解は、次のようなものでした。

外国企業も告訴権

1.「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」が立法院で可決され、総統によって公布された後は、その母国が世界貿易機関(WTO)に加盟している外国企業は、台湾政府の認可を受けたかどうかにかかわらず、その営業秘密が直接侵害を受けた際には告訴権を有する。

2.18年11月に会社法が改正・施行されたが、この改正は、TRIPSに関連する法規について「台湾政府による認可の有無にかかわらず、外国企業は台湾の法律の範囲内で国内企業と同じ能力を有する」という事実を確認したにすぎない。3.営業秘密法には従来、「認可を受けていない外国法人は、当法に規定する事項について告訴をすることができる」という規定はなかった。しかし、それは法的なミスであり、それを「認可を受けていない外国法人は告訴権がない」と解釈することはできない。同法は20年1月の法改正で上記の規定が盛り込まれたが、事実上は何も変わってはいない。

 最高裁は、外国企業の告訴権を支持することを明確に表明しています。最高裁の見解によれば、会社法改正後、外国企業は知的財産権だけでなく、全ての権利侵害について告訴権を有することとなったわけです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座