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第342回 バイオテクノロジーの特許ライセンス/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年7月27日_記事番号:T00103897

産業時事の法律講座

第342回 バイオテクノロジーの特許ライセンス/台湾

 2014年、台湾国立バイオテクノロジー研究開発機関の財団法人生物技術開発中心(生技中心、DCB)は、「石蓮花(せきれんか)薬物」の特許技術を民間企業、金医生物科技股份有限公司に移転しました。

FDAにIND申請も認められず

 この契約では、DCBは14年12月31日までに米食品医薬品局(FDA)の臨床試験開始届(IND)申請を完了させることが定められていましたが、DCBが提出したIND申請は、FDAから「安全性試験が不十分」という理由で、「生体内臨床試験は全面中止」との書簡を受けました。

 16年9月、金医はDCBに対して申請手続きを完了するよう、期限を設けて督促を行いましたが、DCBは期限内にこれを行いませんでした。そのため金医は契約を解除し、DCBに対してライセンス料の第1回分である300万台湾元(約1400万円)の返還と、設備購入費の賠償を求めて提訴しました。

 これに対しDCBは、ライセンス料の第2回分である1500万元を支払うことを求め反訴しました。

 19年12月、第一審の台北地方法院(地方裁判所)は、金医の請求を棄却しました。理由は、DCBにはFDAのIND申請をする義務はあるが、完成させる義務はないというものでした。

 また台北地方法院は、DCBはFDAのIND申請を完了させなければ、第2回分のライセンス料を求めることはできないと契約で定めているとし、DCBの訴えも棄却しました。

 双方が控訴した控訴審では、21年9月に智慧財産及商業法院(知的財産および商業裁判所)が、金医は第2回分の支払いを行うべきとの判決を下しました。

 判決で、「『FDAのIND申請の完了』とは、FDAのIND申請書類の提出を意味し、FDAのIND申請の承認を意味するものではない。そうでなければ、国が多大な公費を投じて研究開発(R&D)した成果を回収することは困難だ」と判断しました。

審査完了までが必要

 金医の控訴を受けた最高裁は、22年7月、次のように判示し、原判決を破棄しました。

1. DCBがライセンスした特許技術は、国家科学技術プロジェクトの執行によって得られた研究成果である。DCBは臨床試験を計画し、FDAへのIND申請を目標に、必要な関連データを完成させなければならない。

2. DCBは、FDAのIND申請に必要な関連データを完成させ、書類や補足資料の提出などを含む、FDAへのIND申請を行う義務を負っていることを認めている。

3. 従って、FDAのIND申請プロセスとは、FDAの受理だけでなく、完成した申請書類の提出と、臨床試験を実施するための審査完了が含まれる。

 バイオテクノロジーのR&Dは不確実性が高いものです。しかし、本申請は申請後すぐにFDAに拒否されました。DCBが資料を補填(ほてん)して申請を進めないのは、本申請は審査を通る見込みがないためかもしれません。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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