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第347回 AIは特許発明者たり得ない/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年11月23日_記事番号:T00106024

産業時事の法律講座

第347回 AIは特許発明者たり得ない/台湾

 ここ最近の人工知能(AI)の流行は目まぐるしく、おおよそコンピュータに関係するものには全て「AI」が冠されるほどの勢いです。ある国では、AIの発明に対して特許を申請した人もいるほどです。

 米国に住むある特許出願人は、2018年に、出願書上の発明者を「AI」として、欧州特許庁(EPO)に「食品容器」の特許を出願しました。

 EPOは、AIは欧州特許条約(EPC)の発明者の定義に合致しないとして、補正を要求しましたが、補正が行われなかったため出願は却下されました。

発明者=人と限らない?

 出願人は、▽EPCは発明者が自然人であることを要求していない、▽AIが発明者となることを禁止することは公平ではない、▽EPOには出願に記載された発明者の真偽を審査する権限はない──などとして、法律審判合議体(Legal Board of Appeal)に上告しました。

 21年12月、出願人の訴えは次のような理由から棄却されました。

1. 特許出願権の発生方式には「発明」と「譲渡」の2つがある。EPCには、発明者が自然人であることは明文化されていないが、この2つの特許出願権の取得方法は規定されている。従って「権利能力を有する者」でなければ特許出願権は取得できないことになるが、AIにはそれがない。

2. EPCの規定の目的は、本当の発明者の権益を守ることにある。出願書に記載された発明者が実際に発明をしたかどうかをEPOは審査できないが、真の発明者または真の出願権利者は、特許出願公開によりEPOまたは裁判所に対して権利を主張することができる。従って、発明者をAI(誰でもない)として記載することはできない。

3. EPOがAIを発明者と認めないことは、公平性の原則に反していない。なぜならば、出願人は、発明者が誰であるかを特許明細書(出願書ではない)に自由に記載することができ、あるいはAIがどのように発明を生み出したかを記載することができるためだ。

 発明とは他者が考えたこともなく、また容易には考えつかないものです。AIが発明をできるのかというのは実はとても重要な法哲学的な問題なのですが、残念なことに、EPOは今回これを法技術のレベルで処理してしまいました。

 EPOが公開した特許図面を見る限り、同食品容器の外観は、奇抜でこそあれ、簡単なプログラムでも作成できる、AIとは関係のないもののようです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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