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第348回 何でも営業秘密にならない/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年12月14日_記事番号:T00106453

産業時事の法律講座

第348回 何でも営業秘密にならない/台湾

 業界では「営業秘密」という言葉がはやっています。商取引上の紛争において、一方の当事者が他方の当事者に対して営業秘密の侵害を訴えることはよくあることです。ただし、一定の要件を満たさなければ、法律上の営業秘密として保護されません。

 原告「多麦典事業股份有限公司(以下、原告)」は、2017年から18年にかけて、被告「奕橙国際有限公司」から、「BEAMSトートバッグ」「キュートコスメバッグ」および「アウトドア用折り畳みダブルチェア」を仕入れました。当事者間の契約には、秘密保持条項と宣伝を禁止する条項が含まれていました。

 被告は19年5月、原告ではなく、セブン-イレブンを展開する統一超商(プレジデント・チェーンストア)と契約をしようと画策。統一超商に対して「奕橙国際年度作品」をプレゼンしました。同プレゼンには、前述の3製品の製品名、価格、型式、仕様、収納仕様、重量、素材、印刷、パッケージ、製品の写真が載っていました。

 原告は、▽被告の行為によって、統一超商が商品の材料や価格などの「営業秘密」を知ってしまった、▽被告は過去に原告と提携関係にあったことを公開している──ことなどを理由とし、被告に対して600万台湾元(約2700万円)の違約金の支払いを求め、訴えを起こしました。

公開情報は秘密に当たらず

 20年5月、第一審である新北地方法院(地方裁判所)が原告の請求を棄却したため、原告は同案を智慧財産及商業法院(知的財産および商業裁判所)に控訴しました。しかし同院は21年12月に次のように判示し、原告の控訴を棄却しました。

1. 被告が統一超商に対して行ったプレゼンに記載のある見積価格は、前記の3つの契約の価格と異なっていることから、被告は価格を漏らしていない。また統一超商に対して、原告の被告からの仕入れの価格帯を知らせてはいない。

2. 被告がプレゼンで提案した販促品の素材、機能、仕様は、原告のそれとは異なっている。また、被告が原告に販売した商品は、既に統一超商の販促品として採用されているため、その形状、材質仕様、機能などの情報は全て公開されており、「秘密」ではない。

3. 市場で取引される商品の価格は一定のものではなく、また販売価格は原価や利益などの経営戦略によって決定される。そのため、意図的に競合他社の見積もりを参考にした値切り行為でなければ、競合他社の見積もりを不正に使用したことにはならない。

4. 当事者間の契約にある宣伝の禁止とは、公衆に対する公表を指しており、統一超商に対する掲示は宣伝ではない。

産業倫理に反しないか

 原告はこの判決を不服として最高法院(最高裁判所)に上告しましたが、最高裁は22年10月に原告の訴えを棄却しました。

 原告が主張する「秘密」は、営業秘密法に規定される「営業秘密」には当たらないものの、一般的な秘密である可能性もあります。しかし、最高裁は判決の中で、被告の行為は「産業倫理や競争秩序に反するものではない」と判断しました。この点こそが本案のポイントでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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