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第335回 「正義マン」の法的責任/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年4月13日_記事番号:T00101992

産業時事の法律講座

第335回 「正義マン」の法的責任/台湾

 台湾には「正義哥(正義マン、自粛警察などのような存在)」と呼ばれる人たちがいます。不正を見つけると、すぐに正義の旗印を掲げて介入してくるお節介な人たちです。しかしほとんどの人はそのような行為が違法だと知りません。お節介された側が声を上げ難いため、彼らは自分は正しいと錯覚するのです。

 白聡結氏は新北市淡水区にある「江南社区(団地)」の住民管理委員会の委員長を務める70歳の男性です。

 コロナ禍真っただ中の2021年4月、政府は外出時のマスク着用を義務付け、罰金規定も設けました。

 ある日、白氏は団地1階ロビーで、住民の李徳隣氏がマスクをせずにロビーに入ろうとしているのを発見したため、マスクを着けるよう注意しました。しかし李氏が無視して中に入ろうとしたため、白氏はドアの取っ手を引いて阻止、さらに李氏を何度か手で押しのけました。

 李氏は新北市政府警察局淡水分局に対し白氏を「強要罪」、つまり暴力または脅迫により、義務のないことを強要したり、権利の行使を妨害した罪で告訴しました。

一般市民に介入権限なし

 検察による捜査の結果、白氏は起訴されました。22年3月31日、士林地方法院(地方裁判所)は白氏を有罪とし、2,000台湾元(約8,600円)の罰金としました。白氏は告訴人と和解しなかったため、執行猶予は付きませんでした。

 裁判所は、被告は李氏が「マスクなんかしねえぞ、べらぼうめ!」と言ったために、李氏がロビー入る権利の行使を暴力的に妨害したと判断しました。また被告の行動は「感情の管理、コントロールができておらず、さらに法治観念が希薄であり、不適切である」としました。

 台湾では、このような法治観念のない正義マンがしばしば報道されます。例えば、電車で優先席を譲ることを強要する人などです。彼らの行為はヤクザと何ら変わらない犯罪です。しかし、それを法を根拠に批判するジャーナリストはいません。

 個人の自由を尊重することは、民主主義と法の支配の重要な基盤です。たとえルールに違反した人でも、それに直接介入できるのは裁判所と、法律で権限を与えられた人だけです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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