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第333回 酔っぱらいの証言/台湾


ニュース 法律 作成日:2022年3月9日_記事番号:T00101412

産業時事の法律講座

第333回 酔っぱらいの証言/台湾

 中国には「酒に酔うと本音が出る」ということわざがあります。人は酒を飲むと嘘をつく力が弱くなりますが、言っていることが本当とは限らなくなります。少なくとも裁判所はそう判断しています。

記憶が不明瞭、捻じ曲げも

 台湾高等法院(高等裁判所)は2013年、酒に酔い、男性の先輩の家で嘔吐(おうと)した女性が、「シャワーを浴びている際に先輩から性的暴行を受けた」と訴えたことに対し、女性の証言は採用できないと判断しました。▽被害者の供述が毎回異なる、▽被告宅には当時、ほかにも友人がいたにもかかわらず、彼女は全く助けを求めなかった、▽事後、被告に「お姫様抱っこ」されて3階まで連れて行かれた、▽当日の病院でのけがの検証や警察への届け出の際に、性的暴行について話していなかった──ためです。

 高裁は判決で、「通常、行動能力に影響を与えるほどにアルコールを摂取した場合、意識状態もアルコールの影響を受け、明瞭ではない。また、酔いが覚めた後は酔っていた時の記憶が完全でないことが多い」と明確に判断しました。最高法院(最高裁判所)も支持しました。

 また、高裁が20年3月に下した別の判決では、告訴人は「元彼からモーテルで性的暴行を受けた」と訴えたことに対し、合意の上での性行為だったとしました。告訴人は調査中、性的暴行の状況について印象が曖昧だと証言したにもかかわらず、裁判所での審理中は「しばらくの間、落ち着いて、当時の状況を思い出そうと努力してきた。その感覚を今、思い出した。確かに感じることができる」としました。この証言は「人の記憶は時間とともに薄れる」という自然の法則に反しており、採用できないためです。

 高裁台中分院の20年3月、告訴人が、タクシー運転手である被告が、告訴人の携帯電話を探すのを手伝った際に、リュックから10万台湾元(約41万円)を強奪したと主張した裁判で、一審と同様に被告を無罪としました。

 同裁判所は判決で、「人は酔うと意識による行為抑制が利かなくなり、また意識そのものも曖昧になりやすい。告訴人は酒に酔っていたため、一般人と同程度の認識能力があったか、事件を正しく理解し、記憶できたかどうかに疑問が残る」と判断しました。

 高裁が18年8月に判決を下した裁判では、酒に酔った告訴人が帰宅する途中、被告と口論になり、財布をなくしたことから、被告にひったくられたと訴えました。

 高裁は、「被害者は泥酔していたため、事態を認識することも、記憶することもできない状態だった。何かを知覚できる精神状態になかった状況についての陳述が、意識があってのものなのかについて、疑問が残る」と判断しました。

 これらの判決は、被害者が酒によった状態では、真実と想像を区別することが困難で、後から、存在しない記憶が「作られる」ことがあると判断しています。裁判所は飲酒後の記憶に、良い評価をしていません。自分や他人を傷つけないために、お酒は控えめにすることです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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