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第327回 最高裁がSTBの著作権侵害を認定/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年12月8日_記事番号:T00099965

産業時事の法律講座

第327回 最高裁がSTBの著作権侵害を認定/台湾

 無料でテレビ、映画を視聴できる「セットトップボックス」(以下「STB」)は、どんなに批判されようとも、「〇〇盒子」の名称で公然と販売され、政府もこれまで無対策でした。

無料でテレビ視聴

 王志遠は、2015年にサーバーを設置し、台湾の各有線、無線テレビを国外にある「何康寧」犯罪グループのサーバーにアップロードし、違法STBの利用者に同サーバーから無料で視聴させていました。

 18年6月に検挙、起訴された王は、10年7月に第一審の新北地方法院(地方裁判所)で他者の著作の「無断複製」および「無断放送」を理由に、懲役1年の有罪判決を受け、犯罪所得205万台湾元(約840万円)は没収、さらに民事では各テレビ局に100万元を賠償する判決を受けました。

 しかし第二審の知的財産および商業裁判所は、21年4月に原判決を取り消し、他者の著作の「無断複製」および「無断送信可能化」については懲役1年、執行猶予3年、犯罪所得については614万元の没収としたため、検察が上告しました。

 最高裁は21年11月、次のような理由から原判決を取り消し、差し戻しました。

1. 番組は連続して放送されており、使用者が自分で時間と場所を選んで番組を受信することはできないのであるから、被告の罪名は「無断放送」であり、「無断送信可能化」ではない。

2. 被告人と、「何康寧」と名乗っている者、およびSTB業者は共同正犯である。原判決には、被告人と「何康寧」のみを共同正犯とし、STB業者を共同正犯としていない点に過ちがある。

3. 裁判記録内の財務資料には、被告人が複数のサーバーを設置していたとある。検挙されたのは1カ所であるが、裁判所はその他のサーバーについても、全ての機材の没収を宣告すべきである。

4. 被告人が被害者と和解に至っていないのにも関わらず、執行猶予付き判決としたことは、「修復的司法」の趣旨に反する。

 本件における最高裁の知的財産および商業裁判所に対する指摘は、非常に厳格なものです。しかし、STBが市場にあふれ、同機が権利侵害をしていないとすら認定する検察まで出現したこの現状を見る限り、台湾司法の問題はまだまだ深いものがありそうです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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