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第324回 音楽著作権の侵害判断/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年10月13日_記事番号:T00098908

産業時事の法律講座

第324回 音楽著作権の侵害判断/台湾

 著作権法は各種芸術創作を保護しています。著作が侵害された場合、著作の類型によって、証明方法が異なります。

 例えば図形の著作の侵害の証明は二つの図形を目で見て「実質的近似」かどうかを観察するという非常に直感的なものですが、コンピューター・プログラムの侵害の証明の場合、プログラム内の指令やコードは、通常は侵害側のものと同じではないため、執行結果の画面により判断されます。

 音楽創作の楽曲の近似はどのように判断するべきか、裁判所の判例は少なく、一般の方でもその判断基準は明らかではありません。

楽曲に関する判例は少ない

 黄美如(芸名・藍又時)は楽曲『睡美人』を作詞作曲し、2001年当時、まだ台北市華岡芸術学校在学中に公開の場で演奏、発表しました。

 黄氏の華岡芸術学校での後輩である王心如(芸名:王楽妍)は、09年にアルバム『哥本哈根的童話』を発表しましたが、その中の歌曲『到底愛怎麼了』と黄氏の『睡美人』が高度に近似していたため、黄氏は検察に告訴、検察は10年に起訴しました。

 台湾士林地方法院は12年10月に次のような理由から被告無罪としました。両楽曲は「実質的近似」であるが、検察は被告がその創作以前に同楽曲に接触(聴いた、または知った)していたことを証明できなかった。

 検察の上告を受けた当時の智慧財産法院(知的財産裁判所、現・知的財産および商業裁判所)は、被告が他者の著作をCDとして複製した場合は親告罪ではないという著作権法の規定は違憲であるとして、司法院大法官の解釈を申請しました。これにより本案は21年5月に違憲ではないとの大法官の判断が下るまでの8年間、審理停止されていました。

楽曲と「接触」できたか

 その後、同法院は21年9月に次のような理由から被告の王氏を有罪としました。

1.「メロディー」とは、同系列の同じまたは異なる高さの音を、特定の高低およびリズムにより関連付けた、一種の音の序列であり、聴覚に訴えるもので、視覚における「線」のようなものであり、音楽作品の思想感情を体現する主要な要素の一つである。

 また「リズム」とは、一定の速度をもった一種のビートであり、主に異なる長さの音質および音調の高低を組み合わせることで、メロディーの骨格となるものである。

2.鑑定人によれば、両曲は「小節数や曲譜にいくらかの違いはあるものの、両曲には細かなリズムの違いがあるのみで、主要なメロディーは同じ」であり、「根本的な差はないため、同一の楽曲と見なすことができる」。

3.被告は告訴人の後輩であり、同曲への接触は可能であった。また被告は本案審理中も何らの曲譜創作を行っておらず、「独立して本案侵害著作を行う能力があるのかについては疑いの余地が大いにある」。従って、偶然の創作であった可能性は排除される。

 本案の判決理由は、一般の方が楽曲の権利侵害の原則を理解することの助けとなるものと考え、紹介しました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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