ニュース 法律 作成日:2021年9月8日_記事番号:T00098292
産業時事の法律講座営業上の秘密を侵害した場合、営業秘密法で処罰されます。そのため一部の企業は、退職した従業員や同業他社を同法で制限しようとしますが、実際に営業秘密と呼べる情報を持っている企業は少ないため、同法上の侵害案が成立した例は多くありません。
写真撮影後ブログで公開
葡萄王生技股份有限公司の主張は次のようなものでした。
▽林垂松は同社研究員であり、陳清裕は元社員で、退職後、生技国際開発公司の責任者となった。
▽葡萄王の「康貝児(N)乳酸菌顆粒技術標準書」には、康貝児乳酸菌製品の製造方法が含まれており、同社の営業秘密に当たる。
▽2016年6月、林垂松が同文書をダウンロードし、乳酸菌の成分表、製造方法を陳清裕に渡した。
▽陳清裕は同僚にこの部分の写真を撮影させた。
▽製造方法の成分量にモザイクをかけた形で、16年11月に同同僚のブログ「小格子媽咪」内の「恐怖のプロバイオティクス(善玉菌)製造方法<証拠写真あり!>」で公開された。
葡萄王はこれらを発見後、検察に告訴、公訴提起後に2億5,000万台湾元(約10億円)の損害賠償を求めました。
公開情報は秘密ではない
第一審の桃園地方法院(地方裁判所)は2020年4月、被告ら全員を無罪としました。検察はこれを控訴しましたが、第二審の知的財産および商業裁判所も、21年1月に、次の理由から控訴を棄却しました。
▽「康貝児(N)乳酸菌顆粒」製品の容器および外箱には成分表上にある原材料名19項目の記載があるため、同表上の項目内容は営業秘密ではない。
▽同製品は市場に流通しており、誰でも「シーケンシング(NGS)」などにより同製品中の菌の種類と数量を分析できることから、同表記載の内容は秘密ではないことが分かる。
▽葡萄王は「合理的な保護処置」を採択していないだけでなく、生産ライン上の全職員が同標準書を持っていることから、同標準書が営業秘密法上の営業秘密ではないことは明らかである。
検察官は上告しましたが、最高裁判所は21年8月、葡萄王側の賠償請求とともに、これを棄却しました。
本案件は元々、同業他社への悪意ある広告行為(ネガティブキャンペーン)だったのですが、なぜか営業秘密案件にまで「昇華」した結果、本来であれば相手を非難する側であった葡萄王が、自らをおとしめる結果となってしまいました。皆さんも気を付けてください。
徐宏昇弁護士
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