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第322回 営業秘密とは何か/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年9月8日_記事番号:T00098292

産業時事の法律講座

第322回 営業秘密とは何か/台湾

 営業上の秘密を侵害した場合、営業秘密法で処罰されます。そのため一部の企業は、退職した従業員や同業他社を同法で制限しようとしますが、実際に営業秘密と呼べる情報を持っている企業は少ないため、同法上の侵害案が成立した例は多くありません。

写真撮影後ブログで公開

 葡萄王生技股份有限公司の主張は次のようなものでした。

▽林垂松は同社研究員であり、陳清裕は元社員で、退職後、生技国際開発公司の責任者となった。

▽葡萄王の「康貝児(N)乳酸菌顆粒技術標準書」には、康貝児乳酸菌製品の製造方法が含まれており、同社の営業秘密に当たる。

▽2016年6月、林垂松が同文書をダウンロードし、乳酸菌の成分表、製造方法を陳清裕に渡した。

▽陳清裕は同僚にこの部分の写真を撮影させた。

▽製造方法の成分量にモザイクをかけた形で、16年11月に同同僚のブログ「小格子媽咪」内の「恐怖のプロバイオティクス(善玉菌)製造方法<証拠写真あり!>」で公開された。

 葡萄王はこれらを発見後、検察に告訴、公訴提起後に2億5,000万台湾元(約10億円)の損害賠償を求めました。

公開情報は秘密ではない

 第一審の桃園地方法院(地方裁判所)は2020年4月、被告ら全員を無罪としました。検察はこれを控訴しましたが、第二審の知的財産および商業裁判所も、21年1月に、次の理由から控訴を棄却しました。

▽「康貝児(N)乳酸菌顆粒」製品の容器および外箱には成分表上にある原材料名19項目の記載があるため、同表上の項目内容は営業秘密ではない。

▽同製品は市場に流通しており、誰でも「シーケンシング(NGS)」などにより同製品中の菌の種類と数量を分析できることから、同表記載の内容は秘密ではないことが分かる。

▽葡萄王は「合理的な保護処置」を採択していないだけでなく、生産ライン上の全職員が同標準書を持っていることから、同標準書が営業秘密法上の営業秘密ではないことは明らかである。

 検察官は上告しましたが、最高裁判所は21年8月、葡萄王側の賠償請求とともに、これを棄却しました。

 本案件は元々、同業他社への悪意ある広告行為(ネガティブキャンペーン)だったのですが、なぜか営業秘密案件にまで「昇華」した結果、本来であれば相手を非難する側であった葡萄王が、自らをおとしめる結果となってしまいました。皆さんも気を付けてください。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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