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労務コンサルタントの
事件簿55「台湾において、仕事を与えないのはパワハラ?」


コラム 人事労務 作成日:2022年5月20日

労務コンサルタントの事件簿

労務コンサルタントの
事件簿55「台湾において、仕事を与えないのはパワハラ?」

記事番号:T00109286

 台湾求人サイトyes123が今年4月に実施したパワハラ実態調査で、今までパワハラを受けた経験があると答えた労働者が約7割(71.6%)にのぼっていることがわかりました。また、被害を受けた際の対応として最も多かったのは「後に不満を伝えた」(40.9%)、次に「その場で不満を伝えた」(36.4%)、「黙って耐えた」(22.7%)という結果となりました。最近ではパワハラにまつわるトラブルも徐々に増えてきており、パワハラを行った本人はもちろん、問題を放置していた場合などは、企業も責任を問われることもあり、予防や対策に取り組んでいる企業が増えています。
 さて、ある会社がパワハラを訴えられ、精神的苦痛に対する慰謝料として40万台湾ドルを請求されました。果たして判決はどうなるのでしょうか。

総経理:李さんの業務縮小による解雇の無効をめぐる訴訟の件だが、残念ながら不当解雇の判決が下された。
協理:さようでございますか。では復帰させなければならないということですね。
総経理:そうだな。ただ、会社を訴える人はもう信頼できないから、営業は任せられないね。内勤に異動させて雑用でもさせておけば、会社に居づらくなって辞めてくれるでしょう。
協理:そうですね。総務部に異動させましょうか?ただ、総務部は人手が足りているので、与えられそうな仕事はあまりないのですが…。
総経理:できるだけ会社の業務に関わってほしくないから仕事をさせなくても構わないよ。給料は従来通り支給しているから何の問題もないでしょう。パソコン、電話、文房具なども必要ないと思うから手配しなくてもいいよ。
協理:承知致しました。できるだけ業務に関わらせないよう注意致します。

 李氏は仕事上必要な設備が与えられず、且つ過度に行動を監視されたため、精神的に大きなダメージを受けたと主張。また、李氏宛の電話にでるときも他の人のデスクに行き電話を借りなければならない。これは職場環境を悪化させ、精神的・身体的苦痛を与える行為だと訴えた。

◉判決
 結論として会社側にパワハラ行為があったことが認められましたが、慰謝料は10万台湾ドルまで減額になりました。
 裁判官は、金銭的な面だけではなく、職場環境を悪化させ、人格権を侵害する行為も労働条件の不利益変更にあたるとして、上記が不法な異動であると判断しました。また、仕事上必要なパソコン、電話や文房具などの設備を故意に提供しないことは、労働者のあるべき労働条件の剥奪に属し、その就業権や尊厳への侵害の程度は、社会通念上(社会一般に通用している常識または見解上)許容しうる範囲を超えているため、精神的苦痛は重大であることが認められました。
 尚、当事者双方の身分、年齢、教育程度、社会的地位、経済能力、原告に対する侵害の程度、精神的苦痛を受けた期間等の情状を酌量した結果、慰謝料は10万台湾ドルが妥当という結果に至りました

◉解説
 台湾ではパワハラに関する労働トラブルは日本よりも少ない傾向にあります。また、実際パワハラの認定は難しく、証拠が不十分であれば、パワハラが成立する可能性は低いです。しかし、会社に防止対策が講じられていない場合には、有事の際に連帯責任を問われる可能性があります。そのため、防止措置として、規程の整備(被害救済措置の手順、懲戒規定の明確化など)や社内教育の実施を推進し、並びに相談窓口を設置し、できるだけ社内で解決できるような仕組みを構築することで、会社が訴えられるリスクはかなり低減されます。
 尚、ワイズでは社内規定作成から研修までサポートが可能です。必要の際はぜひお気軽にご相談下さい。

※本コラムで紹介する裁判結果は、数ある裁判の一判例にすぎず、絶対的なものではありません。個々のケースによって異なる判断が下されることをご了承下さい。​

 

 

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