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労務コンサルタントの
事件簿52「台湾における採用内定の取り消し」


コラム 人事労務 作成日:2022年2月11日

労務コンサルタントの事件簿

労務コンサルタントの
事件簿52「台湾における採用内定の取り消し」

記事番号:T00109289

 みなさんご存知の通り、毎年春節明けの第1四半期は台湾人が活発に転職する時期(年後轉職潮)です。台湾大手求人サイトの統計によると、既に求人広告掲載件数と求職者数はともに一気に増え、3月には転職ブームのピークが到来することが予想されています。
 さて、ある会社(以下、Y社という)が人事の不手際により内定を取り消すことになりました。内定を取り消された応募者は納得いかず、契約不履行を訴え、Y社に損害賠償を請求しました。会社側はこれに応じる必要があるのでしょうか…?

陳(人事部長):林さん、研究開発部書記の最終面接は合格です!いつから入社できますか?
林(応募者):ありがとうございます!入社日については、できるだけ早く退職できるよう努力しますが、引き継ぎが必要のため、明日会社と相談したうえでご連絡いたします。
陳:わかりました。では確定されましたらご連絡ください。林さんの入社を楽しみにしております。
林:はい!承知いたしました。では失礼いたします。
(翌日林氏は退職届を提出し、会社と退職日を調整のうえ、Y社に入社可能日の連絡を入れた。しかしその2週間後…)
陳:林さん、Y社人事部の陳です。先日は入社可能日のご連絡ありがとうございました。しかしながら、必要だった書記のポジションがなくなってしまいました。非常に申し上げにくいのですが、内定は取消しせざるを得ません。ご理解下さい。
林:ちょっと待ってください。どういうことですか?
陳:その代わりと言ってはなんですが、アシスタント(助理)のポジションでしたら用意できます。アシスタントの場合、給料は32,000元になりますが、(書記の場合は35,000元)、仕事の内容は類似しています。どうかご検討いただけませんか?
林:約束と違います。せめて給料は同額で採用してください。既に退職届も提出しているんですよ!今更退職を取り消すこともできませんし、納得できません!
 林氏がさらに追及したところ、林氏の内定が確定後、会社で経営上の都合により急な人事異動があり、社内の既存社員を書記に配置させることになったのが原因だと判明した。その後林氏は半年間再就職できず、それにより被った損害の賠償として17万台湾元をY社に請求した。

◉判決
 結論として裁判官は会社側の契約不履行を認めたが、損害賠償額を大幅に減額した。その理由は次の通りであった。
1.会社は代わりのポジションを提供することで内定取消しの回避に努力し、且つ本人の能力はその業務に堪えられると認められる。
2.代わりのポジションでも労働条件は大して変わらず、給与は希望額よりも多少は少なくなるものの、原職よりは高いため、不利益を与えていない。
 もし林氏がアシスタントの採用に応じていれば、無職になることはなかった。よって裁判官は林氏が再就職できなかったことの責任を会社に負わせるべきではないと指摘し、再就職できるまでの休業損害(逸失利益)は認められないと判定したのだ。損害賠償額は離職日からアシスタントとして採用した場合の入社日までの賃金及び労工退職金、労工保険未加入による損害額、合計5,917元までが認められた。

◉解説
 台湾の法律によると、内定者が承諾の意思表示をしていない段階であれば、会社は内定を取り消すことが可能です。また、内定が有効になる要件として、内定の承諾を特定の形式で行うよう要求している場合、その要件が満たされるまでは、内定を取り消しても問題ありません。これは、民法第166条により、当事者双方が契約の成立に特定の方式を要件とすることを約束している場合、その一定方式に従うことにより契約が成立するものと認められているからです。(台湾桃園地裁107年度簡上字第207号判示参照)
 従って、企業側の対策として、内定の承諾については、提出期限を設け、書面または電磁的方式で行うよう義務付けることが非常に重要となります。また、会社の指定方式による承諾連絡が到着する前であれば、内定を取り消すことがある旨を内定者にあらかじめ説明しておくことが望ましいです。
 今回のケースにおいても、面接時に内定を告げるのではなく、正式な採用通知書とその特定の形式による承諾連絡をもって内定が有効になることを徹底していれば、おそらくトラブルは免れたでしょう。

 

 

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