記事番号:T00126939
【はじめに:10年ぶりの定点観測】
ご無沙汰しております。ワイズリサーチの段です。最後に台湾トレンドコラムを執筆したのが、2016年。気づけばそこから約10年の月日が流れ、カレンダーは2026年を迎えました。
なぜ、このタイミングで筆を執ることを決めたのか。理由は3つあります。1つ目は、純粋に「台湾の社会現象を観察すること」が好きだから。2つ目は、「台湾のリアル」を、日本の経営者の皆様に届けたいから。そして3つ目は、自身の「好奇心・観察力・独自の視点」を錆びつかせず、保ち続けたいという思いからです。
変化の激しい台湾市場の「今」を、再び皆様と共有できることを楽しみにしています。再開第一弾となる今回のテーマは、台湾で社会現象となっているSNSについて。実は今、台湾人のコミュニケーション文化に、ある大きな変化が起きているのです。
■なぜ、「Threads」は爆発したのか?
2026年の現在、世界のSNS勢力図を見渡すと、相変わらずX(旧Twitter)やInstagram、TikTokが覇権を争っています。しかし、ここ台湾だけは少し事情が違います。Meta社が提供する「Threads(スレッド、またはスレッズ)」が、一過性のブームを超え、国民的なインフラとして定着しているのです。
ウェブサイト分析ツール「シミラーウェブ(Similarweb)」のデータによると、Threadsへの国別トラフィックにおいて、台湾「世界1位」のシェアを記録し、人口約2,300万人の島国が、世界全体のアクセスの約2割を占めることもあるという、異常なほどの「Threads大国」なのです。
図1 Threadsにおけるトラフィックシェア

■全台湾人の巨大LINEグループ
「Threadsは実質、全台湾人が入っている巨大なLINEグループだ」と現地のユーザーの間では、もっぱらこう形容されています。Threadsのおすすめ表示のアルゴリズムは、フォローしていない「見ず知らずの台湾人」の投稿を積極的に流してきます。
日本では「知らない人からのリプライ」に警戒心を抱くこともありますが、台湾では全く逆の現象が起きます。「お腹すいた」と呟けば、全くの他人が「あそこの麺線が美味しいよ」と教え、「仕事が辛い」と書けば、数千人の他人が親戚のような距離感で「辞めちゃいなよ!」「元気出して」と慰めの言葉を書き込むのです。
まるで団地の井戸端会議や、村の集会場のようなフラットで温かい会話が、デジタル空間で昼夜を問わず繰り広げられているのです。

■世界遺産も守備範囲? 「台湾人探偵網」
この「巨大な井戸端会議」のパワーを証明する、ある衝撃的な事件がつい先日(2025年末)話題になりました。舞台は、なんとエジプトのピラミッドです。
ある台湾大学の学生が、エジプト観光中にスフィンクスの近くで「学生証」を落としてしまいました。広大な砂漠の中でカードを落とすなど、普通なら諦める状況です。しかし、その学生証を拾った別の台湾人観光客が、Threadsに「この学生証の持ち主、近くにいない?」と写真を投稿しました。
すると、この投稿にはまたたく間に17万件以上の「いいね」がつき、拡散。わずか12時間以内に本人と連絡がついたのです。「台湾大学のキャンパスはエジプトまで拡張されたのか?」「台湾人はThreadsを全世界対応のLINEだと思っているのか?」――現地のネット上では、そんな驚きの声が溢れました。
これは、Threadsのアルゴリズムが、位置情報だけでなく「台湾人コミュニティ」の繋がりを最優先し、地球の裏側にいる同胞同士さえもマッチングさせてしまった好例です。
もちろん、同じ事象は台湾人が最も愛する旅行先である日本でも起きます。日本の電車やカフェで落とし物をした際、警察に行くよりThreadsに書く方が早い――。そんな「デジタルな互助会」のネットワークの中に、今の台湾消費者は生きているのです。
■企業も無視できない「本音」の経済圏
台湾におけるThreadsの隆盛は、単なるアプリの流行ではありません。それは、「台湾人の国民性(人懐っこさ、お節介、団結力)」がデジタル化されたものと言えます。
感度の高い日本の経営者や店舗は、すでにこの「アルゴリズムの癖」を利用し始めています。例えば、福岡のあるコーヒーショップは、2月9日にThreads上であえて「繁体字中国語」を使って投稿を行いました。その結果、わずか2日間で2.7万いいね、800件を超えるコメントが寄せられる大反響となりました。
図2 Threadsのマーケティング影響力

企業やマーケティング担当者にとっても、この現象は無視できません。作り込まれた広告クリエイティブよりも、Threads上の「中の人」による人間味あふれる投稿や、ユーザーとの対等なおしゃべりが、ブランドの信頼を勝ち取る鍵となっています。
もしあなたが今の台湾の「リアル」を知りたいのであれば、ガイドブックを見るよりも、Threadsを覗いてみてください。そこには、世界で最もお節介で、最も温かい「巨大な井戸端会議」が広がっているはずです。
そして、本コラム「段子の台湾トレンド情報」も、ぜひ引き続きチェックしてみてくださいね。
段婉婷
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