記事番号:T00130660
■孤独ではない背中
長島総経理は、デスクに李経理を呼び寄せると「本社から新たに成果を可視化するために、KPI(重要業績評価指標)を設定してほしいと言われた」と話した。予想に反し、李の返答は驚くほど冷静で的確だった。
「指標は、効率化によって削減される『時間』でしょうか。あるいは、算出された『人件費』にすべきでしょうか?」
長島は、李の経歴を思い出し合点がいった。実家が会計事務所で学生時代から父の手伝いをし前職は信用金庫の融資課。数字の扱いは専門領域なのだ。安心して一任することに決めた。
李が自席に戻ると、そこには管理部の3人の課長が待ち構えていた。彼女の机の上には、1冊の『kintone(キントーン)完全ガイド』が置かれている。多忙を極め、kintoneの教育訓練には出られない自分を案じ独学しようと買い求めたものだ。
「あれあれ。副部長、そんな本を読んでいる暇ないでしょう?」総務課長が茶化すと、会計課長が真剣な面持ちで続けた「来週の教育訓練、副部長も参加してください。その間の業務は私たち3人で分担しますから」。課長たちは知っていた。彼女が誰よりも早く出勤し誰よりも遅く帰りプロジェクトを支えていると。「KPIの策定も、私たちに任せてみませんか?」人事課長も加わる。
李経理の瞳が微かに潤んだ。自分の正しい努力が、仲間に認められている。それは何物にも代えがたい報酬だった。
■パソコン寿命と意外な繋がり
パソコン故障の調査に、あの「助っ人」のエンジニアがやってきた。管理部と親しげに挨拶を交わすと不調な端末を次々と検査した。「結論から申します。すべて新しくしましょう。原因は老朽化です。このスペックでは最新のOSを動かすには力不足すぎます」。報告が終わり彼が片付けをしていると、連副総経理がふらりと近づいてきて「お父さんは元気かね?」と尋ねた。
「ああ、連おじさん、こんにちは!父は今、ほとんどベトナムに行っています」青年が明るく答える。連の表情が、わずかに和らいだ「作業は終わったんだろう。ランチでもどうだ」「はい、ぜひ!」礼儀正しく応じた。
■研鑽の4日間
いよいよ始まったkintoneの教育訓練。5名のメンバーに混じり李も一人の生徒として席に着いた。長島も気がかりなようで、時折、会議室の小窓から中の様子を覗き込んだ。
一番熱心に質問を浴びせているのは、営業部から加わったケイだった。彼女の後ろの席に座る李は、ふとケイのパソコン画面に目が止まった。そこには、講義が始まる前にびっしりと書き込まれた「予習」の跡があった。(仕事が早くて正確なのは、才能だけじゃない。人知れず、準備をしているからなのね…)
李は、若き原石たちがデジタルの光を浴びて、いま確実にその輝きを増そうとしているのを感じていた。

オフィス業務にkintone
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宇都宮武則
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