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第231回 CCLの台光電子材料、董定宇・董事長


コラム 経営 作成日:2025年10月17日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第231回 CCLの台光電子材料、董定宇・董事長

記事番号:T00124720

 台光電子材料(エリート・マテリアル)は、プリント基板(PCB)の主要材料、銅張積層板(CCL)の専業メーカーで、ハロゲンフリー基板の世界最大のサプライヤーです。顧客は、米アップルやグラフィックスプロセッサー(GPU)大手、米エヌビディアなどです。

■株価急落から再起

 台光電子材料は1992年、何応欽氏の姪(めい)の夫(義理の甥)の朱厚人氏が設立しました。何氏は中華民国の四つ星上将で、日中戦争では蒋介石・総統(当時)に次ぐ地位でした。董定宇氏の母親の何美卿氏も何氏の姪で、同社の株主でした。

 董氏は幼い頃に渡米し、スタンフォード大学で工学博士号を取得し、大学で助理教授として勤務しました。

 1990年代に父親の体調が悪化したため帰国し、台光電子材料に名義上の経理(マネジャー)職として入社し、株式の店頭登録および上場の準備に携わりました。

 2001年9月11日に米国同時多発テロ事件が発生し、台湾の株式市場も急落しました。02年には台光電子材料の時価総額はわずか12億台湾元まで落ち込みました。税金滞納は2億元、銀行への借金は13億元、子会社の従業員への給与未払いは3カ月分と、深刻な経営危機に陥りました。

 03年、董氏の母親の何美卿氏が董事長を臨時で引き受け、翌年04年に董氏が副董事長に就任しました。董氏は、技術、生産、顧客を主軸に、経営再建を進めました。

■環境配慮でアップル供給網に

 技術面では、董氏は2つの方向性を定めました。

 一つは、当時、最も収益性が高かった高密度多層基板(HDI)用材料を守ることです。HDIは従来のPCBに比べて薄型軽量で、電子機器の小型化や高性能化に対応できました。

 もう一つは、日立製作所からハロゲンフリー材料のライセンスを取得し、ハロゲンフリー基板の自社製品を開発したことです。

 09年、アップルが鉛フリーおよびハロゲンフリー部品の全面採用を決定すると、台光電子材料はすぐにアップルのサプライチェーン(供給網)入りを果たし、CCL材料の独占供給パートナーとなりました。

■値下げに応じず

 16年6月、董氏は董事長に選任されました。17年、アップルがサブストレートライクPCB(SLP)に変更する際、パナソニックや日立を認定し、台光電子材料に対し大幅な値下げを要求しました。

 当時の台光電子材料はSLPの技術がなく、董氏は見積もりさえ出さず、アップルの受注を失いました。その結果、18年は売上高が落ち込みました。

 ところが19年、アップルはパナソニックと日立に増産、値下げを求めましたが、成功しなかったため、台光電子材料に協力を求めました。この時には、台光電子材料はSLPの技術と生産能力を既に整えており、アップルとの取引を再開しました。

■研究開発費率3%

 20年、エヌビディアのジェンスン・フアン(黄仁勲)最高経営責任者(CEO)がA100GPUを発表し、人工知能(AI)時代の幕が開けました。HDI材料に強い台光電子材料は、エヌビディア向けに新材料を開発し、エヌビディアの初代AIサーバーに独占的に採用されました。

 技術的リードを維持するため、台光電子材料の24年の研究開発(R&D)費は12億元を超え、売上高の約3%を占めています。

■最終顧客と直接対話

 技術と生産能力だけでなく、顧客に逃げられないようにしなければなりません。台光電子材料は、マーケティングセンターを設立して、最終顧客と直接対話しました。

 マーケティングチーム18人がエヌビディア、アップル、テスラ、グーグル、アマゾン、メタなどの顧客と向き合い、研究開発や生産の要望に随時対応しています。

 このマーケティングセンターは「情報部門」でもあります。董氏が陣頭指揮を執り、マーケティングで得た情報を即時報告させています。

 こうして、情報収集からマーケティングに、技術から工場拡張につなげています。

■軍人家庭、規律を徹底

 董氏は軍人家庭で育ち、厳格で決断力に富んだ性格です。自ら率先して行動し、集中力と決断力に優れ、経営スタイルは独裁的です。

 社内には座右の銘や信条が掲げられています。たとえば、「不貳過(同じ過ちを二度と繰り返さない)」「勝己者勝天下(自分に勝つ者が世界を制す)」「立自我成無我(自己を確立して無我に至る)」──。こうした言葉は、社員の精神的指針となっています。

■時価総額、300倍以上

 董氏のリーダーシップの下で、台光電子材料はAIの発展を支える核心材料のハイエンドCCLを掌握しました。

 02年に時価総額は12億元まで落ち込みましたが、今や4000億元を超えました。

荘建中

荘建中

ワイズコンサルティング社高級顧問

 年間200回以上のセミナー講演を行い、法律、経営、人事、財務、人材育成など、多岐にわたるテーマを幅広く扱っている。なかでも難解な内容をわかりやすく伝えることに定評があり、参加者から高い評価を得ている。ワイズのエース講師として、どんなテーマにも柔軟に対応でき、ユーモア有る話術で魅力的な講演が可能。(言語)中国語◎

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